2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J04371
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
米倉 陽子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | tough構文 / 文法化 / 主語 / energy flow / 経験者 |
Research Abstract |
tough構文に不定詞節部の意味上の「主語」と思しきfor句が現れることがある(例:This book is easy for children to read)。しかしこのfor句は実は「主語」でなく,「経験者」である(証拠:The Pentagon would be amusing for there to be a raid on)。これとよく似たit is difficult for anyone to serve two lordsでは,不定詞前のfor句は文法化を受け,「主語」になっている(証拠:It will be tough for John for there to be another child in the family)。本研究では,なぜtough構文不定詞節前for句は「経験者>主語」という文法化の潮流に乗り遅れたのかを解明した。tough構文は主節主語の性質を不定詞補部内activityを通して浮き彫りにしようとするものであり,主節主語はnon-agentiveでなければならない。本来,non-agentive項はagentive項に比べてenergy flowの理由から主語になりにくい。non-agentive項を主節主語に据えるtough構文では,agentive項を抑えてnon-agentive項を「昇格」させるために,何らかの認知的操作が行われているはずだ。本研究では「agentive participantを経験者とみなすことにより,energy flowの影響を減じさせる」という操作が働いていると考える。そのため,tough構文に現れるfor句は,他の不定詞節前for句が主語へと文法化を受けたにも関わらず,「経験者」の地位に甘んじ続けるのである。また,tough構文ではfor句が現れない場合は不定詞節内のactivityの担い手(経験者)は「人々一般」であると考えられる。このように想定すると,2重目的語構文(DOC)がこの構文に現れにくいのも説明できる(例:^*John was tough to give criticism/^<*?>Criticism was tough to give John)。即ち,プロトタイプ的DOCは「受益」概念を含んでいる。「受益」を「経験」として捉えなおすと,DOCの「経験者」とtough構文の「経験者」が同一構文に現れることにより,「異質経験者の衝突」が起こり,容認性が落ちると思われる。tough構文for句は文法化の流れに逆らい,一見,人間の認知能力をベースとした言語変化理論の反例に見えるかもしれない。しかしfor句の「無変化ぶり」はむしろ,「認知ベースの言語変化」をサポートする例であることを明らかにした。
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Research Products
(1 results)