2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J04699
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野村 玄 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 近世 / 国家 / 天皇 / 将軍 / 江戸幕府 / 公家 / 叡慮 / 徳川 |
Research Abstract |
本年度は、論文・研究ノートを2本、学術書への寄稿1本を行い、あわせてこれまでの公表論文等を課程博士学位申請論文「日本近世国家の確立と天皇」としてまとめる作業を行った。その結果、近世の天皇は単に「形式」として存在したのではなく、人間として明確な意思は有しており、時にはそれが江戸幕府の行動を束縛していたことが判明した。また将軍徳川家光は、朝廷の中枢部を構成する公家高官の人選に強い関心を抱いており、人柄と健康状態を重視する形で自ら内々に人選を行っていたことも明らかとなった。 従来、天皇・朝廷の行動が幕府に影響を及ぼすという事態は、近世後期以降の特徴とされてきた。しかし、同様の事態は近世前期(17世紀)より確認できることであり、なかでも寛永6年(1629)の後水尾天皇による突然の譲位は、幕府に事前の了解なく皇位が動いてしまった事件として、徳川将軍家に衝撃を与えた。以後、江戸幕府は、皇位の掌握と天皇の人格的意思(「叡慮」)の捕捉・制御に努めるが、容易には実現できなかったことが判明している。このことをふまえて私は、17世紀以降の政治過程は、幕府が天皇の人格と向き合う緊張関係を常に内包した過程としても捉えられると主張してきた。 また、従来の研究では、公家たちも「形式」的な存在とされてきたが、将軍徳川家光が公家高官を任ずるに際し、人柄と健康状態を重視した事実は、公家高官が単なる「形式」的な存在ではなく、近世の体制に明確に位置づけられた存在であったことを示している。 このように私は、徳川将軍家と天皇・朝廷との関係を軸に、政治史的方法を用いながら研究を進めた。その成果は、平成15年度課程博士学位申請論文「日本近世国家の確立と天皇」としてまとめ、大阪大学大学院文学研究科へ提出した。
|
Research Products
(3 results)
-
[Publications] 野村 玄: "近世前期の公家高官任官過程とその特質"史學雑誌. 第112編第8号. 34-54 (2003)
-
[Publications] 野村 玄: "後西天皇の譲位と「天子御作法」"歴史評論. (掲載決定済).
-
[Publications] 大石学編(野村玄は第2章分担): "近世国家の権力構造-政治・支配・行政-"岩田書院. 431(51-83) (2003)