2002 Fiscal Year Annual Research Report
トマス・パーシーのバラッド編集にみる口承文学復興の意図とナショナリズムの表明
Project/Area Number |
02J04852
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三原 穂 大阪大学, 大学院・言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 口承文学 / 編集方針 / オーセンティシティ / 偽作 / 英国学 / 写本と印刷本 / 原典修正 / シェークスピア編集 |
Research Abstract |
全部で五版を重ねたトマス・パーシー(1729-1811)の編んだバラッド集『英国古謡拾遺集』とその種本であるフォリオ写本を比較照合してわかったのは、第一版から第三版まではフォリオ版に忠実に基づいておらず、それに対して第四版からはフォリオ写本により忠実に編集されている。この傾向は、フォリオ写本から『拾遺集』に移された過半数のバラッドに関して当てはまる。なぜこのように第四版でフォリオ版を忠実に復興しているのか。その理由が口承文学の復興の意図と関わりがあるのかどうかをこの一年間考察してきた。考察の結果わかったのは、上記の編集方針の変化が、文字として印刷するためには、口承文芸を洗練したものにして世に出すべきという芸術家的なものの考え方から、洗練されていなくても口承文芸をそのまま忠実に再現しようという学者的嗜好への変化に合致するということである。この研究成果は、元ケンブリッジ大学英文科図書館員ジリアン・ロジャーズ博士の協力を得て、パーシー関係の貴重な資料を調査したことに由来するものである。パーシー研究の第一人者である、英国ブリストル大学英文科シニアレクチャラー、ニック・ブルーム氏に相談した結果、ハーバード大学・ホートンライブラリーにある、パーシーの手書きの文書の資料の調査は不要になった。この研究成果は2003年5月に開催される日本英文学会(成蹊大学)の研究発表で披露することが決定している。これからの研究課題は、学者的な嗜好への変化を裏付ける時代背景編集方針の時代的基準、当時のオーセンティシティの問題等に焦点が当てられることになるであろう。 九州地区では自分の研究に近い研究をしている学者たちが研究会を開いており、本年度はここで二回小規模な発表をして意見交換を行った。さらに10月には日本カレドニア学会全国大会上記研究課題に関わる発表を行った。
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Research Products
(1 results)