2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J05179
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉本 学 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ジンメル / 相互作用 / 個人と社会 / 個人主義 |
Research Abstract |
本研究は、ゲオルク・ジンメルの社会学的論考のなかに、客観的な実在としての「社会」生成の理路を探り、それをかれの思想的全体性と関連づけて把握しようとする試みである。通説的には、ジンメルは実体的な社会観を否定し、社会を諸要素(諸個人)の相互作用へと還元したと言われている。ところがその一方で、かれの思考には、社会をその担い手たちを離れた実在のように捉える見方も共存している。しかし、そのことは決して矛盾でも一貫性の欠如でもない。むしろ、ジンメルは(とりわけ形式社会学において)相互作用を基盤として、そこから社会の客観化・実体化を解いたのである。そのことは、かれの三者関係論と集団の自己保存論、および多数決論などに確認できる。そしてこの客観化・実体化された「社会」は、もはや単純に諸個人の相互作用へと還元されない。それは「独自の生命」をもって諸個人に対立するものとして現出するのである。 そのような、独自の存在資格をもつ社会と諸個人との間の葛藤は、ジンメルのさまざまな著作において頻繁にあらわれるモチーフである。このモチーフ(個人と社会の葛藤)の背景には、ジンメルの哲学上の立場があると想定できる。ジンメルは18世紀と19世紀における個人主義の思想について論じるなかで(『社会学の根本問題』など)、19世紀的な個人主義を比類なき個性に価値を置くものと特徴づけ、そうした個人主義が想定する社会像を、分業的相互作用からなる有機的な社会として特徴づけた。それについてのジンメルの肯定的な論じ方から、かれ自身もまた、そのような個人観および社会観を広義において共有していると考えられる。したがって「個人と社会の葛藤」モチーフもまた、そうした一種の形而上学的前提から論じられたものであることが推察されるのである。 以上のように、本年度の研究では、(1)ジンメルの社会学のなかから社会の客観化・実体化への理路を発掘し、(2)客観化・実体化された社会と個人との葛藤について、それをジンメルが独特の哲学的立場から問題にしたことを明らかにした。
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