2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J05179
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉本 学 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ジンメル / 相互作用 / 個人と社会 / 文化の悲劇 / 物象化 |
Research Abstract |
本研究は、ゲオルク・ジンメルの社会学的論考のなかに、客観的な実在としての「社会」生成の理路を探り、それをかれの思想的全体性と関連づけて把握しようとする試みである。前年度までの研究において、ジンメルの形式社会学が相互作用を基準とし、そこから「社会」の客観化・実体化を解いたことを明らかにしてきた。本年度はさらに、この論点がジンメルの哲学的業績とどのような関連をもつかについて検討をおこなった。 ジンメルは生の哲学において、生の創造的な運動とその帰結について論じた。すなわち、生は自らの限界を超えて客観的なものを生み出す(生の自己疎外)が、その所産は独自の意義と法則をもって生に対立するものとなり、さらには逆に生を規制しさえする。こうした見方から、ジンメルは「文化の悲劇」を論じている。すなわち生によって生み出された「客観的文化」が自立化し、それを生み出しまた受容する「主観的文化」と乖離して生を規制するのである。 ジンメルのこうした文化の悲劇論は、著書『貨幣の哲学』とともに、近代における人間の疎外を論じたものとしてしばしば取り上げられてきたが、他方、形式社会学的な業績についてはその文脈で論じられることがほとんどなかったように思われる。それに対し本研究では、ジンメルの形式社会学がかれの文化の悲劇論とつぎのような関連があることを明らかにした。形式社会学が人間の生の実際的なあり方を他者との協同すなわち相互拒用に求め、それを通していかに客観的な社会的形象が(関係の物象化として)生み出されるかを解明することによって、一種形而上学的な「文化の悲劇」をより現実的・具体的な位相で考察したものといえるのである。
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