2002 Fiscal Year Annual Research Report
中世天台声明の音楽学的研究〜声明の和様化を中心にして〜
Project/Area Number |
02J05836
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
青木 静乃 (近藤 静乃) 東京芸術大学, 音楽学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 天台声明 / 寺事 / 伽陀 / 朗詠 / 卅二相 |
Research Abstract |
1.今年度は、中世に行われていた天台声明が現在はどのような形で演唱されているか探るべく、声明演唱の場である法会について、その現状の整理を行った。天台声明は各宗派声明の雄たるべき存在であるため、その影響力も強い。そこで、天台宗に留まらず、全国の主な寺院約500寺 (宗派を問わず)で行われている仏教行事(以下、「寺事(てらごと)」と称する)を対象として、辞典類などの先行研究にあるデータを網羅的に収集した上で、(1)「寺事データベース」および(2)「寺院住所録」の2つのデータベースを作成し、さらに(1)(2)にリレーション機能を設けた。(1)は行事一つを1レコードとし、1809件の入力を終えた。今後は、これらのうち本山級の寺院に絞って、寺事の実態に関するアンケート調査を行う予定である。 2.今年度行った楽譜類の史料調査では、声明の和様化の一要素と考えられる雅楽との接点に着目し、雅楽と声明の合奏曲<卅二相>や、声明曲<伽陀>と歌謡<朗詠>の旋律的互換性を有する<伽陀朗詠付物>、および雅楽を演奏する立場から声明の音律論を説いた西園寺実兼著『音律事』などを主たる対象とした。 史料調査を行ったのは、京都大学附属図書館および叡山文庫である。京都大学では、菊亭家旧蔵の貴重書などを中心に多くの雅楽関係の史料を所蔵しているが、これまで音楽学において声明研究の視点から同図書館の所蔵調査を行った例は少ない。そこで、今回改めて声明と関わりの深い雅楽譜(計35点)を調査したところ、笙譜の『瑞鳳集』に、一般の雅楽譜にはあまり見られない<伽陀朗詠付物>を見出すことができた。一方、叡山文庫では<卅二相>の声明譜および雅楽の横笛・篳篥・笙・打物譜の各譜を閲覧したところ、同文庫蔵の各<卅二相>の雅楽譜は、中世以来伝存する声明博士に対し、明治期に楽人林廣継の協力のもと、新譜を作成したものであることが明らかになった。
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