2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J05970
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
庄司 俊之 筑波大学, 社会科学系, 特別研究員(PD)
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Keywords | 臓器移植 / 医療社会学 / 医療化 / 専門家支配 / 優生学的配慮 / 資本制 |
Research Abstract |
本年度の研究計画では、移植医療をめぐる諸制度の記述、および国際比較、またそれらの歴史的変化を記述することを目標とした。ここでいう諸制度とは法制度や医療組織だけでなく、ある意志決定を正当化する際の要因となる文化的背景まで含めた広義の「制度」である。 まず、時間軸を入れないスタティックな比較検討において指標としたのは、合意方式、医師会と国家の関係、個人主義の強度の3つであった。検討の結果、アメリカとフランスのように同じ個人主義であっても、医師会と国家の関係の相違ゆえに合意方式がまったく異なるもの(自己決定方式と推定合意方式)となること。また、アメリカとドイツのように同じく強力な医師会があっても、個人主義の意味内容が異なるがゆえに移植医療を推進する力に相違が現れてくること。そしてドイツと日本のように英米型の個人主義を持たない国であっても、医師会と国家の関係の相違から移植医療への関心の高低といった相違が出てくること。これらのように、制度を複層的に捉えることによって、各国の制度や実績を優劣によってでなく、条件の差異として適切かつ明瞭に区別して説明することが出来た。 つぎに時間軸を入れ、歴史的変化を考慮して検討する際、第1に注目したのが国家的ヘゲモニーと医療のヘゲモニーが相関するという点であり、第2に移植技術そのものの過渡的な性格であった。つまり、この2点に注目すると、移植技術は戦後に突如として現れたのでなく、戦前以来の国家的競争のなかで形成されてきたものと理解できるのである。こうした理解のもと、本研究では、やがて移植技術に結実する源流として、実験にもとづく近代医学の基本的ロジック、優生学的配慮、資本制への適応という3つの要素を析出し、なぜ戦後のアメリカが移植大国となったか(なぜその他の国がそうならなかったか)を整合的に説明した。 以上の分析を踏まえ、来年度は医療社会学の中核概念としての医療化概念との関連において臓器移植を分析する予定である。
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