2003 Fiscal Year Annual Research Report
ディドロ思想における「怪物」概念の諸相を巡る総合的研究
Project/Area Number |
02J06796
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
満島 直子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | ディドロ / 怪物 / 奇形 / フランス / 18世紀 / 思想史 / 美学 / 認識論 |
Research Abstract |
本年度は、認識論、美学関係の著作で取り上げられる"monstre"の特徴と、この概念がディドロの様々な理論形成において果たした役割を調査した。この分野でも、「怪物」は、著者の作品に一貫して頻繁に登場し、自然の必然的な法則に従った、統一性(ユニテ)をもつものは美しいと評価され、何らかの矛盾や、基本法則への違反を含むものは批判されるという傾向を持つが、その種類や扱いは、思索の流れと共に変化する。 まず、有翼獣などの幻想の生物は、身体内部や外界との関係に矛盾がなく、機能的構造を持つ点で評価される。人物では、変形が、身体器官、年齢、職業の必然的結果を表す場合に整合的形とみなされ、自然なオリジナリティという発想も現れる。しかし、プロポーションやデッサンの狂いの場合には、失敗作として批判される。また、作品全体が、目的論的な有機体として捉えられる為、必要な要素が欠けたり、余分な要素、異質な要素を含むもの、一つの全体を構成しないもの等は、構造に欠陥のある、ある種の怪物と判断される。製作者や鑑賞者のレベルでは、個人の器官や能力、環境の違いにより、認識や感性、判断にばらつきがでるが、特に天才が怪物として扱われる他、正しい判断を基準とした場合の、様式や趣味の特性(マニエール)が怪物とみなされ、そこから特に乖離するものを「怪物」とする、ある種の規範的価値の想定が伺われる。 認識論、言語論の展開に際しては、盲人や聾唖者が中心的な位置を占めるが、美学においても、自然界に存在しない生物や、身体の様々な変形、醜悪な事物、怪物等による残酷な場面(崇高論に繋がる作品)などは、真実性や、美の根拠の問題、作品の自律的価値、理想モデル、限界例などについての思考を促し、「自然の模倣」を原則とするディドロの理論の精緻化において、重要な役割を果たしていた事が確認された。
|