2003 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本におけるエマソンの受容と文学的規範の変容過程
Project/Area Number |
02J06802
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
水野 達朗 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | エマソン / 北村透谷 / 文体 / 翻訳 / モダニティ / 比較文学 / 国木田独歩 / 岩野泡鳴 |
Research Abstract |
本研究では、明治文学のエマソン受容を検討する際、伝記と思想の受容ではなく、文体と表現の受容に焦点を合わせている。それにより、単に日本の文学者がエマソンをどう理解したかを問うのではなく、彼等がエマソンを翻訳、紹介した文章自体を、固有のテクストとして捉え、受容の場で生じる屈折のメカニズムを、問題にできるからである。特に本年度はこの点、エマソンの『自然』を訳出・要約した、透谷のテクストの精緻な分析を眼目とし、翻訳の場で生じる表現の変容と、その文体論的な意味を追究した。その結果、エマソンのテクストでは、錯綜した展開にもかかわらず、全体として「連続性」を実現しているのに対し、透谷の翻訳テクストでは、この連続性が見失われ、特定の部分のみが取り出されていることが判明した。隠れていた「非連続性」が、翻訳テクストで顕在化するという現象は、国木田独歩や、更に岩野泡鳴の事例でも確認できた。 次に留意したのは、文体上のこの現象が、文学を支える「近代的」な諸規範の受容という文脈の中で、いかなる機能を果したのかという点である。昨年度の研究ではこれを、自己表現や現実描写という規範の問題として捉えていたが、本年度は、それらを支える「近代性」(モダニティ)という点に留意して、理論的・歴史的な背景を精査した。現在、日本文学における「近代的」な諸規範は、特定の諸概念、或いは世界観の確立、せめぎ合いの過程として記述されることが多い。しかし本年度の知見を踏まえると、概念や世界観などの具体的な内実ではなく、実体を欠いたまま、感情や認識の「強度」を求めては不在に直面する、非連続的な精神の在り方こそが、翻訳の場で透谷らの直面した「近代性」であることが判明する。同時に原文で、この非連続性が隠蔽され、ある世界観に構造化される様子を追究することで、表現を巡る文化的な前提の差異と、その帰結が確認できたといえる。
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Research Products
(1 results)