2004 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本におけるエマソンの受容と文学的規範の変容過程
Project/Area Number |
02J06802
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
水野 達朗 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 日本近代文学 / ジャンル / テクスト / 植民地主義 / アメリカ文学 / 異文化受容・文化交流 |
Research Abstract |
本年度はこれまで進めて来た、個別の文学者におけるエマソン受容の検討(特に受容の現場における解釈の偏差と、偏差を生み出す同時代的文脈の解明)を、岩野泡鳴やその他周辺の文学者を中心として更に深めると同時に、それらを踏まえ全体のまとめを行った。本研究では、明治文学のエマソン受容を考える際、エマソンのテクスト自体の読みに立ち戻り、テクスト読解の現場を具体的に検証すると共に、受容の現場で生じる現象を、成立期の「近代文学」が抱えた諸問題との関連で考察してきた。その結果エマソンは「文学」を、表現者の人格と世界の認識に還元するが、この志向自体が、文学表現に新たな緊張をもたらしている様子が確認できた。特に詩人の個別性と普遍性、具体的な現実と精神的な意味との間の「非連続」が、受容の現場で顕在化してくる経緯は、ある思想や概念の理解や誤解という問題を超え、近代における「表現」の困難を照らし出している。こうした観点から、香港の国際比較文学会で発表を行い、西洋近代的な規範が、非西洋世界において脱構築されながらも規制力を有していく例として、この問題を広い文脈で議論できた。他方、透谷、独歩、泡鳴ら日本の文学者によるエマソン解釈を通して、エマソンのテクストに内在する特色を浮き彫りにすることで、比較文学研究の成果を、エマソン研究そのものに還元することを試みた。本研究ではエマソンの文体の特色を、「非連続」という言葉で捉えてきたが、アメリカのエマソン研究を通観すると、近年のエマソン再評価が、「非連続」な文体への注目に始まることが明らかになる。明治期の文学者の経験は、エマソン研究の現状をある意味で先取りしているわけである。こうした現象を、エマソンを取り巻く文化的・時代的な条件の違いに由来するものと捉え、それら前提の違いをエマソン研究においても考慮に入れる必要があることを主張した論文が、『アメリカ研究』に掲載される。
|
Research Products
(1 results)