2002 Fiscal Year Annual Research Report
市民社会から「民族共同体」へ ドイツ都市における社会政策実践1900-1930
Project/Area Number |
02J06840
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辻 英史 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ドイツ / 社会福祉 / 世紀転換期 / 地方自治 / ボランティア / 名誉職 / 救貧 / 女性運動 |
Research Abstract |
本研究は、19世紀末から20世紀のドイツ都市における社会政策実践の分析を通じて、ドイツ社会の構成原理が、市民社会から「民族共同体」へと移行していく過程を検証することを目的とする。研究初年度に当たる2002年度は、上記研究の導入部分として、基礎的な史料収集作業とその分析を行った。ここで問題となるのは、都市社会福祉政策の発展を支えた市民層の問題意識、自己アイデンティティー、そして知覚のあり方や行動規範などといった、理念史的・概念史的アスペクトであり、本年度はここに研究の重点を置いて作業を行った。 まず、2002年8月から10月にかけて、ドイツに滞在し、各地で資料収集を行った。ベルリン州立図書館・プロイセン文化財部門(在ベルリン)では、主としてかつてのプロイセン宮廷図書館が収蔵していた同時代文献を調査の対象とした。ここでは、都市社会政策の中心をなす救貧事業に関して、とくに自由主義の立場から市民層知識人が現状分析や批判的提言、さらには国際比較を行っている書物を多数調査することができた。バイエルン州立図書館(在ミュンヘン)では、都市社会政策に対する外部からの批判を検討するため、とくに注目されるのは、社会福祉事業における男性市民の独占を打破して、近代的な専門職による組織へと変革されていく際に主導的な役割を果たした世紀転換期のドイツ女性運動であり、その定期刊行物や演説集を調査した。 また、今次の滞在においては、こうした刊行史料だけでなく一次史料の収集をも行った。ミュンヘン市立文書館では、都市社会事業の現場として、救貧局(のち福祉局)の文書を閲覧することができた。ここでは、市民層のイデオロギーや社会統合観念が貧民とのかかわりという社会政策実践の日常の中で絶えざる緊張関係をはらみつつ展開され、その内在する論理矛盾が都市化の進展とともに次第に顕在化していった状況を読みとることができる。さらに、バイエルン州立文書館では、都市での社会事業の上級監督官庁であるバイエルン内務省の文書を、とくに警視庁の収拾した情報を対象に調査を行った。 これら収集した資料を分析した研究の成果の一端は、2003年1月25日に東京大学経済学部において開催された、第10回ドイツ近代都市史研究会において「19世紀後半のドイツ都市社会における市民共同体の変容-故郷権(Heimatrecht)と救貧事業-」と題して研究発表を行った。
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