2002 Fiscal Year Annual Research Report
ゲーテの文学作品にみるヨーロッパ近代の科学技術の発展に伴なう身体観の変容の分析
Project/Area Number |
02J06878
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅井 英樹 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ゲーテ / 身体 / 科学技術 / メディア / 産業革命 / 文化史 / 機械化 / 交通 |
Research Abstract |
初年度である本年度においては、ゲーテの文学備品における、18-19世紀の科学技術の発展が当時の身体観に与えた影響をめぐる個々のモチーフ群を抽出・分析した特に集中的に分析の対象とした作品は、小説『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』である。同小説において、解剖学を学ぶ主人公が直面する、美的対象としての身体と医学の対象としての身体との間のジレンマを分析することによって、ゲーテが現代の身体をめぐる問題を先取りして主題化していることを明らかにした。そして、同小説が大きなテーマとしている、産業革命の展開による機械化がもたらした身体観の変容、メディア・交通手段の発達と身体、などの問題についても、重点的に分析をすすめた。そして、小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の登場人物ミニョンにおける身体の問題を、同登場人物が描写される際に用いられる機械、人形、死体、動物の表象を分析することで、近代合理主義によって危うくさせられる人間の自己同一性という論点からさらに掘り下げて考察した。また、戯曲『ファウスト』に登場する人工生命ホムンクルスに見られる身体の問題を、戯曲断片『プロメテウス』における神による人間の創造をめぐるエピソードとの比較を通じて考察することで、ゲーテが、身体的かつ精神的存在としての人間の二面性の問題をきわめて反省酌にとらえており、現代の医療倫理をめぐる問題にも通じる広い射程を持った論点を提出していることを明らかにした。2002年6月3日よりドイツに研究滞在し、ボン大学ドイツ語ドイツ文学研究室を活動拠点としてゲーテ関係資料および、科学技術と身体の関連、文化史的に扱った身体論関係の資料の収集につとめ、ゲーテの作品における身体をめぐる個々のモチーフ群の有機的連関を探る来年度以降の研究の基礎となる論点を得ることができた。
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Research Products
(1 results)