2003 Fiscal Year Annual Research Report
ゲーテの文学作品にみるヨーロッパ近代の科学技術の発展に伴なう身体観の変容の分析
Project/Area Number |
02J06878
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅井 英樹 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | ゲーテ / 科学技術 / 身体 / 産業革命 / 交通 / メディア / 機械人形 / 近代文明批判 |
Research Abstract |
二年目の本年度は、初年度の成果を踏まえ、ゲーテの時代の科学技術の発展が当時の身体観に与えた影響をめぐる個々のモチーフの分析を継続して行うとともに、モチーフ間の有機的連関を探った。とりわけ、小説『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』を対象に、メディアや交通機関の発達と身体性の関わりについて分析をさらに進めた。その結果、産業革命による手職の危機が主要なテーマのひとつであるこの小説において、交通・通信手段の発達によって危うくされる身体性と、その回復への要請という問題意識をゲーテが持ち、身体性の問題を様々な登場人物を通して多層的に主題化していることが明らかになった。昨年度に引き続き、2003年11月30日まで、ボン大学ドイツ語ドイツ文学研究室を活動拠点としてゲーテ関係資料および、科学技術と身体の関連を哲学的、文化史的に扱った資料の収集につとめた。そのことにより、ゲーテと関係の深い、シュトゥルム・ウント・ドラング期やロマン派の文学潮流についても有益な知見を得、方法論の点でも、ジェンダー論や精神分析の立場からのテクスト分析のアプローチに触れたことによって、研究の視野を広げることができた。特に、ドイツ文学における機械人形や人工生命のモチーフの系譜を扱った資料を重点的に調査したことは、小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の登場人物ミニョンの身体性、戯曲断片『プロメテウス』における人間の創造、戯曲『ファウスト』の人工生命ホムンクルスといったモチーフを大きな文学史的コンテクストのなかで関連させて考察する上で有益であった。帰国後は、ゲーテの文学を、近代文明批判などの観点から現代ドイツ文学と比較検討することで、ゲーテの文学のアクチュアリティーを探る試みを行った。
|