2004 Fiscal Year Annual Research Report
ゲーテの文学作品にみるヨーロッパ近代の科学技術の発展に伴なう身体観の変容の分析
Project/Area Number |
02J06878
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅井 英樹 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 科学 / 技術 / 身体 / 交通 / メディア / 精神 / ゲーテ / ファウスト |
Research Abstract |
最終年度の本年度は、一、二年目で行った、ゲーテの文学テクストにあらわれた科学技術の発展に伴なう身体観の変容に関する多様な個々のモチーフの分析の成果を踏まえ、モチーフ間相互の連関を引き続き考察すると同時に、ゲーテの科学方法論に関するテクストの分析も行うことで、ゲーテの科学観についての知見も深めながら、ゲーテにとって身体とは何であったのか、現代の身体論に対してゲーテのテクストがいかなる示唆を与えているかを展望し、ゲーテの文学作品の社会的・歴史的意義を総括する試みを行った。その成果の一部として、二つの論考を学会等で口頭発表した。そのうち、「ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』における「交通」のモチーフと身体性」では、小説『遍歴時代』を、当時の交通・通信手段の発達がもたらした身体性の喪失への動きと、それに抗して身体性を回復させようとする動きのせめぎあう場として読むことで、現代のメディア革命と身体性をめぐる問題に通じる論点を提示した。そして、「ゲーテと身体」では、ゲーテ晩年期の二作品を取り扱い、身体を持たない精神としての人工生命ホムンクルス(戯曲『ファウスト第二部』)と、精神を持たない身体としての人体模型(小説『遍歴時代』)という対照的な二つの「人造人間」のモチーフを比較しながら、ゲーテが、身体と精神の調和に基づく人間像を理想としていること、また、身体を単なる科学的分析の対象としてではなく、美とエロスに関わるものとしてとらえていたこと、そして、ゲーテの身体観のなかに、身体と精神という二元論を超えていく要素もまた含まれていることを導き出した。三年間の研究により、ゲーテが、多様な様態を持つ複合体としての身体を、多角的な視点と、現代に通じる射程を持ったパースペクティブのもとにとらえ、文学的主題として用いることで、その作品世界を豊かにしていることが明らかになった。
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Research Products
(1 results)