Research Abstract |
本年度は,心理現象の理解の発達過程を検討する一環として,(1)幼児を対象とした心拍知覚実験をおこない,さらに,アスペルガー症候群の成人の比較研究として,(2)日常の出来事を認識する能力と,(3)カテゴリー分類を調べる研究を,健常成人を対象に行った.以下,(1)の実験について詳述する. 自分の心拍を知覚する能力は,自己の情動の認識に大きな役割を果たすと考えられる.しかし,幼児を対象に心拍の知覚能力を調べた研究は少ない.そこで,4歳から6歳の子どもを対象に,(1)心臓(および心拍)の知識を質問によって問う課題,(2)速さの異なる擬似心音を聞かせることで,自己の心音知覚がどの程度正確かを測る課題を行った.その結果,心拍が自分の意志によって止められないことは4歳程度でも理解できている反面,自分の意識がなくとも心臓の拍動は存在することの理解には欠けることがわかった.6歳になると,自分の意識の有無にかかわらず心拍はあることがほとんどの子どもに理解できた. 幼児の心音知覚については,4歳児にはそもそも心拍の認識が困難であり,課題遂行自体が困難であった.6歳になると,心拍の認識は見られ,自己の心音と擬似心音の比較をすること自体は可能であったが,正確さには欠けていた. 今回,自閉症児にも上述の課題を行い,うち1人の6歳の男児において完全なデータを得ることができた.多くの6歳児が「寝ているときにも心臓は動いている」と正しく答えられたのに対して,「寝ているときには心臓は止まっている」と答えた点は注意する必要があろう. 今後は,本研究をさらに発展させた心拍知覚の研究を継続するとともに,本研究で明らかになった幼児期の心拍知覚の不正確さを踏まえながら,幼児期の情動認識における心拍知覚の影響について,更なる研究を行うことが求められる.
|