2002 Fiscal Year Annual Research Report
日本近世前半期における「法」の形成―寛文期〜正徳期の幕府法令を手掛りとして―
Project/Area Number |
02J06994
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和仁 かや 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日本近世 / 法制史 / 法・例・裁判 / 歴史認識と解釈 / 琉球法制 |
Research Abstract |
今年度はまず、前年度からの幕府法・裁判における「例」の機能の分析を、幕府史料プロパーから寺社関係の史料にも目を向けつつ行った。訴訟当事者が武家等ではなく公家や寺社である場合は、先例の裁判におけるプレゼンスが相対的に大きくなり、当事者が持ち出す「例」がごく内部的なものでも多くの場合訴訟運営上大きな役割を果たすのは前年度の作業でほぼ明らかになったところであるが、本年度の分析ではさらに、裁判上持ち出される「例」およびその解釈をめぐってしばしば内部的に重大な対立が生じており、また幕府がそれに対する介入・整序の姿勢を強めていたことが判明した。主たる背景には、それまで寺社が(独占的に)有していた知的財産(経典、各種古典・古文書)のこの時期における積極的な再発見ないし再解釈が存在するが、この動きと幕府による様々なかたちでの寺院統制、そして幕府自身の先「例」発掘との並行関係は、実は近世前半期幕府法の形成を考える上で核心的なメルクマールの一である。幕府と密接な関わりを持った天台宗を中心にさらに史料の収集・分析を進め、中世との関係も視野に入れながら、この重要な分析軸を明断化するのが次年度の差し当たりの課題となる。 以上の作業と同時に、幕府法秩序のあり方を相対化する座標としての近世琉球王国の法制度の研究をこれまた前年度より継続し、主として同王国の裁判所である平等所の裁判記録史料の収集・整理および分析を行った。但し琉球といっても、本島地域とその支配下にあった八重山地域等とでは様々な局面において大きな隔たりがあり、しかもそれが、幕府・薩摩・ひいては清等との対外関係も絡む当時のそれぞれの支配・統治制度が内包する諸矛盾や錯雑性を鋭く反映した、きわめて興味深い対象である。今年度中に収集しえた史料を基として、この点の詳細な分析は来年度以降に委ねたい。 なお、今年度の成果は来年度以降の研究成果と併せ、最終的に博士論文として完成させた上で公表する予定である。
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