2004 Fiscal Year Annual Research Report
アジアにおける日本--人、文化、情報の相互的国際移動をめぐって--
Project/Area Number |
02J07026
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中町 千絵 (酒井 千絵) 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国際移動 / ナショナリズム / アジア地域研究 / ジェンダー |
Research Abstract |
本研究では、日本からアジアへの人の国際移動を対象とし、現代社会における移民行為とこれを引き起こす日本-アジア間の相互的な構造を明らかにしてきた。日本からアジア地域への移動者に対する面接調査から得られるデータを用いて、国際移動を引き起こすマクロ構造に個人の行為・意識の側からアプローチし、移民研究におけるミクロな構造とマクロな構造とを統合的に考察した。また、同時代における日本-アジア関係を日本的な文脈を背負った移動者の側から観察し、従来歴史分析や表象・言説分析を用いて行われることの多かった日本のナショナリズム研究に対し、ナショナリズムの多様性や流動性という視点を付け加えた。さらに、現在ますます関係が緊密化するアジアと日本との相互交流を国際移動というミクロな視点から考察し、両地域間における歴史的、同時代的なナショナリズムを多元的なものへと読みかえていくことを目的に研究を行った。本年度は、これまでに行った香港、北京、上海での調査と今年度行った台北での調査を対比し、日本からの移住経験がアジア地域の各都市でどのように異なっているのかに着目して分析を行った。また日本を含むアジア地域に、文化や経済を共有するあらたな空間が出現していることを、現地調査に加え、新聞や雑誌などのメディア言説の調査研究を通して考察した。本年度に明らかにされたことは以下の通りである。文化、経済を共有する空間がアジア地域に拡大していることが、日本人を含む人の国際移動を活性化させている。しかし同時に、国単位の文化を本質的なものととらえ、文化的な差異を相互に強調する言説も同時に増大している。また、国際移動現象は、送出元社会と受入社会の間の二元的な関係のみならず、その地域に移住するさまざまな社会からの移住者の間の多元的な関係を反映しており、このことは香港での日本人とフィリピン人の間でのジェンダー構造にも明らかである。つまり、人や文化の移動が活発化することによって、相違を強調する認識が強まるという逆説的な状況が生じており、その中で人びとが、自分の移動経験を位置づけているのである。
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Research Products
(2 results)