2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J07066
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上野 愼也 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 古代ギリシア / アテーナイ / ポリス / 歴史叙述 / 時間感覚 |
Research Abstract |
本年次の研究計画は以下の通りである。 イ、昨年度に真正を証したアンドキデース第三番弁論に見る史実描写の歪みが持つ意味を考える。その際、同時代の歴史叙述(特にクセノポーン)、政論(特にイソクラテース)との類似点、相違点に配慮する。読書人士から陪審廷に集う市民まで、西紀前四世紀前半のアテーナイの言説空間に参与した人々の思考を瞥見するのが狙いである。 ロ、右の考察で得た知見を踏まえ、世紀後半のデーモステネース、アイスキネース等の弁論の検討に進みたい。同世紀中に「過去の在り方」がどのように変容したかを議論する。 イソクラテースの弁論作品のうち『財産交換訴訟について』『パナテーナイコス』に顕著な対話構造を分析し、全編を貫く叙述の在り方を考察した。ここに盛られた高度な叙述技法は、聴衆並びに読者の受容を推測する上で有効である。『パナテーナイコス』は歴史叙述をも含む。同様の叙述が見られる他の作品を解釈する上でも、本年度の研究の持つ意義は大きい。 しかしながら、イソクラテースをめぐる研究書は蒐集、閲覧が容易ではなく、予想外に手間取ったことから、右の成果を踏まえて、アンドキデース弁論の解析に分け入ることが出来なかった。歴史叙述全般の問題も、作業は緒についたばかりである。本年度の研究計画は僅々その半ばを達成したに過ぎない。以て反省の材としたい。 本年度計画及び本研究全体から派生した成果として、フェーリクス・ヤコービ編『古代ギリシア史家断片集成』(Felix Jacoby ed.,Die Fragmente der griechischen Historiker. Berlin/Leiden,1923-)新版の執筆者に選ばれた。この事業が本研究全体と密接な関係を有することは言うまでもない。執筆担当を決定するに際し、本年度のうち約一月を調査、研究に費やしたので、ここに附言しておく。
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