2002 Fiscal Year Annual Research Report
スピノザと発生の問題:『神学政治論』における聖書批判と『エチカ』認識論との関係
Project/Area Number |
02J07576
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國分 功一郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 中性哲学 / 近代哲学 / 宗教哲学 / ユダヤ教 |
Research Abstract |
本研究の目的は、スピノザが「発生」の合理的認識をどこまで可能だと考えていたのか明らかにすることにある。この問題は、次の二つの点から考察される。 1.旧約聖書における世界および人類の発生の神話を、スピノザがどのように批判しているのか。これを、マイモニデス(1135-1204)およびラ・ペイレール(1596-1676)の思想との比較において考察すること。 2.スピノザの認識論は、事物がその原因からいかに発生するのかを描写することに重きを置いている。このような認識論と、発生神話への批判は、いかなる関係にあるのか。 本年度の研究は、主に、1の点について行われた。マイモニデスとラ・ペイレールは、我が国では、その著作の翻訳もなければ、研究も極めて乏しい(後者については、今のところ、研究は、皆無であると思われる)。そのため、原資料の収集と読解に多くの時間を割かざるを得なかった。マイモニデスの著作は、その多くが英独仏語に翻訳されている。それらを入手し、綿密な読解作業を行った。ラ・ペイレールの著作は校訂版が存在しないため、フランスはパリのソルボンヌ大学から、その著作、Systema Theologicum, ex Praeadamitarum Hypothesi(『先アダム仮説による神学大系』)のコピーをCD-ROMにて入手した。 発生という概念に対する三者の態度は、発生を考えるにあたってのあり得べき思考の型を網羅している。マイモニデスは、神による世界の創造を肯定する。つまり、発生の起源を単一のものとしてとらえる。ラ・ペイレールは、アダムを人類の起源と考えることを否定する。つまり、発生の起源を複数として考える。スピノザは、起源を設定する思考方法それ自体を批判する。では、スピノザのそのような批判は、いかにして可能となったのか。『エチカ』の認識論は、この批判といかなる関係にあるのか。これが来年度の研究課題となる。本研究の本来の研究対象であるスピノザの著作を、本年度の研究と照らし合わせつつ読解し、最終的に論文の形にまとめる予定である。
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