2003 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ合衆国におけるミューチュアル・ファンドのディスクロージャーについて
Project/Area Number |
02J07787
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山川 陽子 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ミューチュアル・ファンド / ディスクロージャー / 証券取引 |
Research Abstract |
私は、前年度の研究を通じて、米国においてディスクロージャー(情報開示義務)制度が実際には個人投資者の保護に寄与していないのではないかという疑問を持った。なぜなら、ミューチュアル・ファンド(以下MFと略す)に関して開示された情報を、投資者自身がその内容の専門性・高度性からほとんど理解できずに取引している事実を、フィールドワークを通じ掴んだからである。また、法律上もディスクロージャーより行政による規制に力点を置くかに見えた。 しかし本年度、訴訟あるいは仲裁の視点から、ディスクロージャー制度の意義を再び考察した際、意外な事実が浮かび上がった。具体的には、提供された情報が虚偽であった場合、投資者が当該情報を理解したか否かに関わらず、投信投資顧問およびMF販売者等に対して責任を問うことが可能であることがわかった。これは米国では、さまざまな状況に応じた詐欺禁止条項が用意されており、当該条項は当該虚偽情報を信頼したことを要件とするも(信頼の要件)、理解したことまでは要求していないことに起因する。そして、この信頼の要件が満たされるか否かは、MF販売者の口頭の説明に対し個人投資者が信頼を置いたか否かによる。すなわち、投資者にとって難解で専門的な情報を開示するディスクロージャー制度は、その情報自体が直接個人投資者に貢献するわけではなく、以下の二つの条件が整ったときに機能するのである。まず、さまざまな詐欺禁止条項が存在し、虚偽情報が提供されたとき投資者が救済を得る法的基盤が整っていること、次に、難解で専門的な情報をMF販売者等が理解した上で、素人である個人投資者に説明し、投資者が販売者等の口頭の説明を信頼して取引すること、である。 本研究は、株や投資信託といった元本保証のない金融商品が日本において普及し始めたことにともなって、日本における「個人投資者の保護」制度のあり方を、米国におけるそれを検討することによって模索することを目的としてきた。日本の銀行・証券実務においては、ディスクロージャーという用語だけが米国から輸入され、至極当然で空虚な文言あるいは高度かつ専門的な情報が投資者に伝えられ、これらを情報開示と称しているのが現状であり、この状況は投資者保護に資していないばかりか、むしろ有害と思われたからである。米国における投資者保護制度が日本でも妥当するかは更なる研究を要するが、本研究段階で日本の「投資者の保護」制度に関する示唆があるとすれば、いくらディスクロージャーの用語を強調してみても「投資者の保護」には繋がらないということである。開示される情報は商品の性格上どうしても専門的・高度的にならざるを得ず、個人投資者にとって理解することが困難であるのは米国でも日本でも同じだからである。 ここでは詳細に論じる紙面がないが、被告に厳格責任を課す、あるいは立証責任を課すことによって、被害者に救済を得やすくさせる詐欺禁止条項を日本で採用できるか否かは、今後の課題としたい。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 萬澤 陽子: "Ranald Michie, The London Stock Exchange : A History"国家学会. 116巻3・4号. 399-402 (2003)
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[Publications] 萬澤 陽子: "SECと弁護士会の弁護士規制を巡る争い:Sarbanes-Oxley法の意味 Susan P.Koniak, Symposium : Regulating the Lawyer"アメリカ法. 2004-1(予定). (2004)