2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J07805
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
許 淑娟 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 国際公法 / 領域権原 / パルマス島事件 / 領域主権 |
Research Abstract |
本研究は領域権原の機能と限界を探るものである。その作業の一環として、本年度は(1)紛争当事国の法律顧問への聞き取り、(2)資料収集、(3)それら資料を分析する際の方法論の模索を行った。 具体的には、(1)日本との領域紛争を抱える韓国外交通商部の法律顧問ともいえるソウル大学法学部ペク・チュンヒョン教授に、領域紛争を捉える視角についてインタビューを行った。(2)領域紛争の画期とされるパルマス島事件の訴答書面を入手することができた(ハーバード・ロー・スクール図書館所蔵)。(3)ハーバード・ロー・スクールのDavid Kennedy教授の知己を得、批判法学的アプローチの本研究に対する適用可能性を検討した。 伝統的な領域権原の判断枠組である「領域権原様式」は、今日の紛争当事国において一切念頭に置かれておらず、パルマス島事件(1928年国際仲裁)を発端とする「主権の表示」が鍵となっている。 16世紀以降のヨーロッパ拡大における国際法が行った正当化を検討したところ、ア・プリオリな権原付与からア・ポステリオリな権原付与へとその態様が変容しており(Fischの業績参照)、その変容こそ「様式論」の崩壊をはらむものであった。具体的には、競合する権原保持者の可能性、無主地と主権の関係がその崩壊の萌芽であった。 このような様式論とパルマス島事件における「主権の表示」の関係が不明確であったのだが、本事件の訴答書面の分析から、本事件仲裁人は意図的に、崩壊の萌芽をはらむ様式論からの離脱をはかり、様式論を包摂する大原則として「主権の表示」の重要性を提示したことが明らかになった。 上述した伝統的な正当化と新しい正当化が、何をめざし、何を隠蔽したのか。様式論からの離脱は、領域権原の判断において主権の内実にまで探ることを、その帰結とする。異質な主権国家の並存する国際社会において、主権の内実を判断することは、あらたな「文明国」基準の導入を意味するのかもしれない。
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