2003 Fiscal Year Annual Research Report
超低温走査トンネル顕微鏡を用いた2次元量子固体の研究
Project/Area Number |
02J07895
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 朋裕 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 超低温 / 低温走査トンネル顕微鏡 / ランダウ準位 / グラファイト / 2次元電子系 |
Research Abstract |
本年度前半は、広範な基礎研究に応用できる、超低温走査トンネル顕微鏡(ULT-STM)の開発を完了した。昨年度までに超低温、高磁場環境中で安定した性能を発揮するに至っていたが、本年度は更に改良を進め、実験空間と希釈冷凍機のための断熱真空空間とを隔絶することで、全温度域で超高真空環境下での実験が可能となった。そのため、ほとんど全ての導電性物質に対して55mKの超低温、6Tの高磁場、そして10^<-8>Pa以下の超高真空という多重極限環境下でのSTM及び走査トンネル分光(STS)が可能となった。 続いて2次元量子固体の基盤としての有力候補のひとつである、グラファイトの磁場中電子状態のSTM/STS観測を行った。フェルミ面をもつ伝導物質に磁場を印加すると、電子の磁場に垂直な方向の運動エネルギーはランダウ量子化される。グラファイトは1μmにおよぶ擬2次元電子系を最表面にもち、またフェルミ面近傍ではキャリア濃度が低く有効質量も軽いため、ランダウ準位のSTS観測に適した物質といえる。実験では単結晶グラファイトであるKishグラファイトと高配向性熱分解グラファイト(HOPG)の2種類のグラファイトについて状態密度を測定した。その結果、HOPGに対してはKishグラファイトよりも複雑な状態密度のピーク構造が観測されたが、両者に共通して、エネルギー値がほとんど磁場変化しないフェルミ面近傍のピークと、エネルギー値が磁場にほぼ比例して変化する一群のピークが観測された。 理論計算との比較の結果、KishグラファイトとHOPGで観測されたピークは、それぞれ半無限グラファイトの最表面、40層程度の有限厚さをもつグラファイトの最表面のランダウ準位に相当することが分かった。特に磁場変化しない準位はグラファイト固有のバンド構造に由来するランダウ準位で、本測定によりはじめて明確に観測されたものである。
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