2003 Fiscal Year Annual Research Report
持続可能な開発を支援するための情報形成に関する研究
Project/Area Number |
02J08022
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日野 明日香 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 公共事業 / 合意形成 / 専門家 / 科学知識 / 科学社会学 / 持続可能な開発 / 情報形成 |
Research Abstract |
本研究の目的は、環境への影響が争点となり、地元で事業の実施をめぐって対立が起きた沿岸域の公共事業を対象にして、最終的な事業に対する意思決定がどのようになされたのかを検証し、不確実性の高い情報を評価する場合にはどのような評価基準が有効であるかを考察することであった。 本研究で分析対象にした事例は、大分県中津市の海岸整備事業と徳島市の沿岸域埋立て事業である。この2つの事例に共通する特徴は(1)事業予定地に生息する絶滅危惧種への影響評価が紛争の引き金になった(2)専門家による影響評価では市民の合意が得られず、地元関係者が参加した合意形成会議が設置され、合意が形成されたことである。 事例分析からは次のことが示唆された。 1.自然環境の現況調査および定量的な影響評価は意思決定に重要な情報ではあるが、その形成過程が閉鎖的であれば、専門家集団が行ったものであっても市民の理解は得られにくい。 2.一方で、簡略化された質的な評価方法であったとしても、その議論が公開されており、合理的な手法に基づいていれば市民の納得を得ることが可能である。 3.事業者が提示した選択肢から合意案を選ぶことは難しい。両事例とも、新たな具体案が委員から提案されたことを契機に議論が収束していった。学識経験者は専門的知見から事業者案を評価するという役割だけでなく、新たな案の形成に積極的な役割を果たしていた。 以上をふまえ、合意形成会議で学識経験者がもつ影響力について考察した。2つの事例では、参加した委員の専門性が大きく異なっていた。これは、それぞれの事例の特徴に応じた人選がなされた結果と解釈することもできるが、事業者の裁量に完全にまかされていたことから、委員の正当性について検討する機会を設ける必要性がある。また、合意形成が達成できたことと、合意案の内容とは別に評価する必要があるが、学識経験者の資質が合意案に与える影響に関しても考察を加えた。
|