2004 Fiscal Year Annual Research Report
世代間倫理を組み込んだ規範理論の可能性:環境倫理の展開のために
Project/Area Number |
02J08263
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 和弘 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 世代間倫理 / 環境倫理 / 未来世代 / 非同一性問題 / 責任 |
Research Abstract |
世代間倫理という問題構制を解き難くしているのは、その構図の中に、1)実在する経験的な存在ではない未来世代の人々が、2)複数出てくるからである。未来世代の存在とその選好は現在世代の行為や制度決定に因果論的に依存しているため、現時点で現在世代が行為の帰属点として名指している未来世代は同位に複数出現し、逆に、複数の未来世代を想起することによって選択性が開示され、責任が意識される。本年度は以上の論理を指し示しと語りの効果として分析した。 未来世代は指し示しから離れて自立的に存在する何かを指し示すものではない。未来世代を語りながら概念が指し示すものとのずれを気にして旋回し続ける複数の語りが、コミュニケーションとしてつながることによって発生する意味の真空、ゼロ記号である。概念の意味作用と真空とのずれはさらなる語りを、意味作用と真空を生み出していく。意味論的時空の真空だから言及して意味を充填することはできないし、その真空自体が言及作用によって生まれるものである以上、それを離れた何かがあるわけではない。だから少なくとも社会学的には、未来世代を語らなくなれば未来世代はなくなる。 したがって、世代間倫理はその思想の存在自体が自明のものではない。どのような社会が未来世代を語っているのか、翻って言えば、近代社会は未来をどのように観察しているのか。この点を解明することが世代間倫理という問題構制を解き明かす上で重要な視点となる。以上の議論を現在論文にまとめているところである。
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