2003 Fiscal Year Annual Research Report
アラビア語写本の校訂を通じた中世イスラームにおける天文観測器具にまつわる歴史研究
Project/Area Number |
02J08323
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三村 太郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 古代中世精密科学史 / アストロラーブ / 中世イスラーム天文学史 / 中世イスラーム数学史 |
Research Abstract |
今期も,前期に引きつづき,マイクロフィルムの整理を行い,実際に読み進めることで,いくつか,今までに分かっていなかったことが解明できた.特に12世紀の科学者アブハリーによるアストロラーブの取扱説明書が,1000年頃に活躍したクーシュヤールによるアストロラーブの取扱説明書を編集したものだということが明らかになった.中世イスラーム世界において,ほとんど似たような内容のアストロラーブの取扱説明書が,さまざまな人によって数多く執筆されたが,なぜ,何度も執筆されたのかはよくわからなかった.しかし,今回発見した両者を比べることで,その理由の一端が分かってきた.いわば,アストロラーブを取扱うことが出来るということを示すために,執筆したのではないだろうか.このように,ある種の精密に出来た機械を使用できるということ自体,ひとつの技であり,他の人と区別されるべき特徴として捉えられたのだろう.そして,科学という文脈において,精密機械を扱うことが,その権威を高める役割を担ったのではないか.科学者が実験や観測を強調する理由というのが,やはり,精密機械の取扱い能力を誇示するためといえるのではないだろうか.今後も,観測における観測機械の位置づけを,より綿密に読み解くことで,科学における人工物の果たす役割について考察していきたい
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