2003 Fiscal Year Annual Research Report
東南アジア諸国の社会福祉政策 -国民統合の視点から-
Project/Area Number |
02J08418
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 絢女 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 東南アジア / 比較政治 |
Research Abstract |
(1)本年度は、東南アジア諸国のうち、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポールの四ヵ国についてデータ収集を行った。その結果、各国の福祉政策について、(1)1990年代に民主化の潮流の中で、国民皆保険が成立したタイ、(2)政治体制の支持基盤である公務員と軍に対して福祉政策が集中したインドネシア、(3)国民全てを対象とする基金制度を柱としつつ、開発政策の文脈で広範な公的扶助と社会保障が行われているマレーシア、(4)基金制度を柱とするリベラルな福祉政策を持つシンガポール、という特徴が明らかになった。 (2)上記四ヵ国のうち、マレーシアは特に、既存研究に対する興味深い逸脱を示している。まず同国は、(1)開発主義経済は再分配政策を度外視する、という従来の経済開発理論から逸脱している。また、福祉国家理論のうち、(2)左派や労働運動の拡大過程で再分配政策が拡充していく、とする権力資源論も、労働組合や左派政党の顕著な弱さから見れば、明らかに適用不可能である。さらに(3)福祉政策を政党の支持基盤安定化の手段と見做す民主主義競争の理論は、同国の政党が特定の階級を支持基盤としないにもかかわらず、労働者に対する社会保障が充実していることから、説得的な説明ではない。 (3)マレーシアの福祉政策拡大過程は、同国の政治体制の特徴から説明できる。他の開発主義国家と同様、マレーシアも社会グループによる過度の政治化を抑制してきた。しかし一方で、これらのいずれも完全に非政治化せずに、可能な限りあらゆるグループを政治的決定過程に参加させてきた。その結果、多様な社会グループから政治的決定に対する合意を得る代わりに福祉政策を実施する、という形で、特定のグループに限定されない再分配政策が形成されたと考えられる。特にインドネシア、タイと比べると、同国の政治体制の安定化は顕著であり、社会福祉政策が政治統合に果たしてきた機能を検証する意義がある。
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