2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J08837
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
緒方 知美 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 経典見返絵 / 平安時代 / 法華経 / 風景表現 / 説話画 |
Research Abstract |
下記の日本((1)〜(5))・中国((6)(7))・韓国((8)〜(10))で制作された作品の調査をおこない、品質形状・法量・見返絵の説話画題と表現形式・表紙絵の文様・経文の書体などを観察し、比較をとおして東アジアのなかでの日本の経典見返絵の特徴を考察した。 <調査作品>(1)三重・金剛証寺本般若心経(11世紀)、(2)京都・仁和寺本法華経(11世紀)、(3)東北大学図書館本法華経巻第八(12世紀後期)、(4)大阪市立美術館本法華経(12世紀後期)、(5)大阪市立美術館本中尊寺交書経ほか(12世紀前期〜後期)、(6)宮城・陸奥国分寺本法華経巻第六(13〜14世紀ヵ)、(7)京都国立博物館本銀字華厳経普賢行願品(至元28年<1291>)、(8)京都国立博物館本銀字文殊師利問菩薩経(至元13年<1276>)、(10)京都・盧山寺本銀字華厳経巻第七十五(14世紀)、(10)釜山・東亜大学校博物館本法華経巻第三(14世紀)。 (2)は現存作例の多い12世紀以降の定型的見返絵((4)など)に先行する作品であるが、説話画題や画面比率に関して定型との差異が認められ、平安時代の作品の先例となったと推定される大陸作品に関して、単一でなく複数の系統を想定すべきであることが導かれた。(6)により11世紀以降の版本流行による見返絵表現の画一化ののちも、中国において唐時代以来の大観構図を踏襲する書写作品も制作されていたこと、(8)(9)(10)により韓国では圧倒的数量の金銀字経が制作されるなかで、見返絵・表紙絵・経文とも表現の硬直化がみとめられるが、文字の謹直さが日本と異なる顕著な特徴であること、さらに大陸では法華経の説話画題には定型的表現からの積極的展開がほとんど認められないことなどが確認された。 上記の大陸と日本作品との相違は、当時の各国における経典意識の相違を示していると考えられ、今後、文献的考察により経典見返絵の制作環境や制儲の意識を明らかにする。
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