2002 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀アメリカにおけるネイティヴィズム高揚の歴史的構造-ナショナリズムと移民労働-
Project/Area Number |
02J08939
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山中 亜紀 九州大学, 法学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | ナショナリズム / ネイティヴィズム / パトリオティズム / アメリカ史 / 移民 / 社会改革運動 / 信仰復興運動 / 19世紀 |
Research Abstract |
本年度は、大きくわけて二つのアプローチ-理論研究と歴史研究-から、研究を進めた。 理論研究に関しては、アメリカ・ナショナリズムの現状分析をおこなうとともに、それを歴史的に理解することを試みた。具体的には、2001年9月11日の同時多発テロ発生以降、アメリカ国内をおおいつくした感のある「パトリオティズム」的風潮に着目した。周知のとおり、テロ以降、アメリカ国内では、政府の外交政策を批判したり、「テロとの戦争」を疑問視したりすることは、「パトリオティズムに反する」態度であるとして、世論から激しく非難された。そうした具体的事例から、「愛国心」をめぐる言説を抽出したところ、パトリオティズムを体制主義的論理としてのみとらえることは、不十分であるとの結論に達した。そこで、Walter Bernsら保守的知識人のパトリオティズム論を分析し、以下の知見を得た。Bernsによると、人々が「カントリーへの愛」を抱くのは、アメリカが、普遍的な政治原理を実践する、唯一無二のカントリーであるからであった。そして、このカントリーを愛することによって、人々は、人種や階級、世代、性差といった垣根をのりこえ、「アメリカ人」となる。このように理解すれば、パトリオティズムとは、「カントリーへの愛」によって、アメリカ「国民」という集団を形成し、維持するための論理であり、その論理構造は、ナショナリズムのそれにほぼ等しいといえる。以上の成果はすでに論文としてまとめており、現在、公表にむけて準備中である。 歴史研究については、本年度は、ネイティヴィズム運動の理論的基盤を築いたSamuel F.B.MorseとLyman Beecherに関する理解をさらに深めることを、最大の目的とした。その一環として、両者に多大な思想的影響を与えたとおもわれる神学者・Timothy Dwightに着目し、彼の著作を分析した。その結果、以下の点が明らかとなった。建国初期に活動したDwightが、古典的共和政国家の建設をめざし、デモクラシーや商業発展に否定的だったのにたいして、一世代のちのMorseやBeecherは、産業社会・大衆社会に適合的な共和政のあり方を模索していた。だからこそMorseとBeecherは、流入する移民労働者に共和主義的教育を施すことを緊急の国家的課題と位置づけたのであった。
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