2003 Fiscal Year Annual Research Report
ムスカリン性アセチルコリン受容体欠損マウスを用いた記憶形成メカニズムの解析
Project/Area Number |
02J09491
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
篠江 徹 神戸大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ムスカリン性アセチルコリン受容体 / 海馬 / 長期増強 / 電気生理学 / ノックアウトマウス / 学習・記憶 |
Research Abstract |
ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChRs)は、記憶形成に大きな役割を担う海馬の機能を制御する事から、記憶形成に重要と考えられている。実際、mAChRsの阻害薬は健忘を引起す。mAChRsにはM_1からM_5のサブタイプが存在し、それぞれが固有の機能を担う。そしてこれら個々の機能が組合わされる事により、脳の記憶形成機構は高度に制御されていると考えられる。そこでM_1からM_5まで全てのノックアウトマウスを用い、海馬神経活動に対する各サブタイプの役割を直接的に明らかにする事を目的とし、以下の実験を行った。 各サブタイプのノックアウトマウス、および野生型マウスから海馬薄切標本を作製し、低濃度のカルバコール(全サブタイプの作動薬:CCh)によるシナプス伝達の長期増強(LTP)増大に対するmAChR欠損の効果を検討した。さらに錐体細胞からパッチクランプ法を用いて膜電位を記録し、低濃度CChがもたらす効果を検討した。電気活動は購入したオシロスコープを用いて観察した。 低濃度CChによるLTPの増大はM_1欠損マウスで減弱していたが、M_1と同じGq結合型であるM_3の欠損マウスでは、野生型との有為な差は観察されなかった。さらにこれらの薬理学的な結果は、海馬上昇層に存在するコリン作動性神経の刺激により放出される内因性アセチルコリンによって再現された。また錐体細胞への低濃度CChの効果をパッチクランプ法により検討した結果、発火頻度、入力抵抗の増大を伴う興奮性の増大が観察された。 これらより海馬のLTP増大機構には、主にM_1が関与している事が直接的に示された。LTPは記憶形成における細胞レベルでの基礎過程と考えられていることから、脳の記憶形成機構にM_1が重要な役割を担うと考えられる。本研究により新たに得られたこれらの知見は、学術論文として発表する準備を既に進めている。
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