2002 Fiscal Year Annual Research Report
カナダにおけるイヌイットのアイデンティティ・クライシスの構造に関する研究
Project/Area Number |
02J09723
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
下村 智子 広島大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | カナダ / 先住民 / アイデンティティ / カリキュラム / 教師教育制度 |
Research Abstract |
本年度は、アイデンティティ研究に関する資料、カナダにおけるイヌイットの伝統文化に関する資料やイヌイット科カリキュラムに関する資料、そして、先住民に対する高等教育政策全般に関する資料の収集を行うとともに、イヌイットの教師教育に関する実態の調査やカリキュラムの実施状況に関する実態の調査を行った。 その結果、主に次の二点が新たな知見として得られた。 第一に、「イヌカティギート」の内容として提示されている伝統文化が再定義されていることが考えられる点である。この中で取り扱われている伝統文化の内容は、各地域の長老などが次の世代に継承することを望んでいるもので構成されている。しかし、実際には、そこに採用されている内容としては、現代社会の生活や価値と葛藤を起こすことが考えられるものについては取り上げられていないことが明らかになった。このようなことから、学校教育においてイヌイット科として教授されていることが考えられる伝統文化とは、精選されたものであると同時に再定義されつつあるものであるといえる。 第二に、イヌイットの教師教育についてであるが、各地域社会に密着した教師教育プログラムが展開されている点である。南部の大学との提携関係のもとでプログラムは展開されているものの、教師になるために地元を離れずして教師教育プログラムのほとんどの講義・実習等を受講することを可能にする制度が整備されていることが明らかになった。教育における地域分権化を促進するヌナブト準州における教育政策の一側面であるといえよう。 来年度は、現代社会のイヌイットのアイデンティティの形成に伝統文化の教授がどのような役割を果たしているのか、カリキュラムやその発展過程についてより分析を進めていくとともに、現地での面接調査を行うことにより明らかにしていきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)