2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J09743
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
CHIASAKUL RACHDA 広島大学, 大学院・国際協力研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 資本流入 / 不胎化政策 / アジア金融危機 / 国内安定化政策 / 裁定金利 / Vector error correction model |
Research Abstract |
民間資本移動とアジア金融危機-実証的分析 本研究は、アジア金融危機の原因を実証的に検討したものである。危機に陥ったインドネシア、韓国、マレーシア、タイの各国には1990年代前半に巨額の民間資金が流入した。この巨額の民間資金が、経常収支を悪化、国内銀行部門の脆弱性、実質為替レートの切り上げを招き、アジア危機の原因をつくったと考えられている。 本研究では、グレンジャー因果テストを用いて、民間資金の流入が他の経済諸変数に影響を与えたことを確認している。この結果、民間資本流入が、(1)マネーサプライ増と銀行部門の貸し出しブーム、(2)物価上昇と実質為替レートの切り上げ、の原因であることが実証的にも確認された。さらに本研究では、民間資本流入がどのように経常収支悪化をもたらしたかを経常収支を決定する諸要因に分解することによって明らかにしている。経常収支を悪化させた要因は、消費を中心とする国内アブソープションの増加と、実質為替切り上げによる国際競争力の低下である。 巨額の資金流入に対して、各国の中央銀行は不胎化政策を実行したが、それは国内金利を高水準に維持し、さらなる資金の流入を招き、その結果銀行部門の脆弱性を増大させることになった。この関係は、金利裁定式を計測することによって確認できる。各国の国内金利とカバーなしの(uncovered)裁定金利の差を計測すると、危機直前の1990年代前半には、1980年代と比べて、その差が拡大していることがわかる。スタンダードなIS-LMモデルに則して考えると、金利水準は(1)中央銀行による資本流入の不胎化、(2)中央銀行による国内安定化政策、の2つの帰結である。Vector error correction model分析によると、危機に陥ったアジア各国においてもこれらの政策が高金利水準に強い影響を与えていたことが確認できる。これらの点から、巨額の資金流入は中央銀行の不胎化政策の結果である可能性が指摘される。すなわち、資金流入に対してとられた金融政策がむしろ危機の原因になった可能性があると考えられるのである。
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