2003 Fiscal Year Annual Research Report
ヘーゲル・ラートブルフ法哲学における事物の本性概念の分析と現代自然法モデルの構築
Project/Area Number |
02J09793
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
金澤 秀嗣 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヘーゲル(Hegel) / ラートブルフ(Radbruch) / 事物の本性(Natur der Sache) / 自然法(Naturrecht) / 法実証主義 / 新ヘーゲル主義 / ラーレンツ(Larenz) / ナチス(National Sozialismus) |
Research Abstract |
今年度は,ヘーゲル法哲学の現代的意義を解明すべく,その「事物の本性」概念を中心にナチス・イデオロギーを基礎付けた新ヘーゲル主義法哲学者カール・ラーレンツの民族法思考の成立過程を分析することに研究の主眼を置いた。科学研究費補助金は文献(新ヘーゲル法学・ヘーゲル全集・ヘーゲル講義録・ラートブルフ著作集・哲学倫理学一般等)の購入や在外研究に従事するための費用に充当された。 1.ナチス期におけるヘーゲル理解については,主として民族共同体思想の先駆者として初期の共同体論的自然法論に焦点をあてた論稿が数多く見られた。新ヘーゲル主義法学の基本理念は,「全体は個物に先立つ」という青年期以来のヘーゲル像に依拠したものであり,それが特有の人種理論と相まって個人の自由を抑圧する傾向を有する様になった点を明らかにした。 2.しかもラーレンツは,ヘーゲルの社会哲学のみならず論理学にも範をとり,近代民法の人格概念を革新,共同体成員としての役割から導かれる「法的地位」(Rechtsstellung)を基軸に据え,独自の「具体-普遍的概念」(Konkret-allgemeiner Begritt)を確立したことを指摘した。そして彼がこの構想をもとに伝統的な人格概念を否定し,権利-義務の統一を説きつつ民族共同体構成員にのみ権利能力を認めるに至った過程を分析した。 3.上記の成果を踏まえながら,新ヘーゲル主義法学のヘーゲル理解が極めて一面的で,わけてもそこでは中・後期の「相互承認」や「事物の本性」といった重要な要素がほぼ無視されているため,ナチス法思想の元凶をヘーゲル哲学そのものに求めることは不当である,との知見に至った。 上記の研究を遂行するため,本年度11月にドイツ・アウクスブルク大学哲学研究所に赴いた。また同地において上述のテーマを研究発表に付し,同大学アルノ・バルッツィ教授をはじめ研究者や学生と意見を交換することができた。本年度に得られた知見については,来年度以降に学術論文・学会発表として公表する予定であり,現在論文を執筆中である。
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