2003 Fiscal Year Annual Research Report
タイ東北部における移動労働者の形成するネットワーク
Project/Area Number |
02J09933
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
渡部 厚志 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | タイ / 農村 / 移動労働 / 経済開発 |
Research Abstract |
本研究では、移動労働を「人々が生活のために、村共同体のネットワークを拡張していく行動」と捉え、以下の仮説を立て、農村部の生活状態や生活設計の調査を行った。 (1)人々は経済・社会の変化と新たな情報から従来と違う生活設計を描いて都会や海外へ誘発されており、収入拡大だけを目的にしているのではない。 (2)タイ政府による移動労働抑制のための所得拡大は、生活のニーズに合致しないため効果が少ない。 しかし、平成14年度までにタイ東北部コンケーン県内の三農村とバンコクで行った基礎調査(インタビューと資料収集)の結果、仮説に疑問が生まれた。調査地において移動労働は、地縁よりも仲介業者や親族のあいまいな情報と資金を元に行われる。また、移動先での村出身者の協同行為や村での残留者の協力は、狭い範囲でしか起きていない。結果、移動労働は、共同体全体の発展よりも内部格差の拡大に繋がっている。 そこで、本年度は調査計画を修正し、分析単位を共同体から家族と個人に変えて生活史調査を行い、人生の中での選択、移動を含めた生計維持を、地域や世代差によって比較検討した。また、個人の行動に影響を与える要因として、仲介業者や政府の労働者輸出政策、農村金融政策などを分析した。 結果、人々は家族の状態、本人と周囲の希望、人脈などから職業や居住地を選択しており、海外労働もその一部分であった。また、女性の場合は60年代うまれを境に、交通と情報網の改善、年長者からの規範の変化によって、進学や職業選択の自由が大幅に拡大していた。さらに、移動経験のない人は周囲の変化をあたかも自分とは無関係な出来事のように認識しており、移動の可能な人/不可能な人の格差は、物理的な差に留まらないことを推論できる。これらの結果は、慶應義塾大学の21世紀COE研究「日本・アジアにおける総合政策研究拠点」ワーキングペーパーシリーズの一部としてまとめ、現在刊行準備を行っている。
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Research Products
(2 results)