2002 Fiscal Year Annual Research Report
バクテリアゲノムにおける組換え促進配列(χ配列)の解析
Project/Area Number |
02J09948
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鵜野 レイナ 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | χ配列(Chi sequence) / 相同組換え(homologous recombination) / 比較ゲノム / RecBCD protein / バクテリアゲノム / コドンバイアス(codon bias) / 分子生物学 |
Research Abstract |
大腸菌においてχ配列(5'-GCTGGTGG-3')はRecBCDにより認識され相同組換えを促進するホットスポットである。K12株(MG1655)においては1009個のχ配列が大腸菌ゲノム内に存在する。また遺伝子領域内に存在する989個ものχ配列のうち7割はg-ctg-gtg-gという大腸菌内で多用されているコドンの読み枠に偏って翻訳される。組換え促進の役割を果たすχ配列は、特に大腸菌ではマルコフ解析などで求められる期待値以上に存在することから、進化の過程においてゲノム中にχ配列が増える選択圧がかかっているといわれている。しかし我々はχ配列そのものに増える選択圧がかかったのではなく、コドンやアミノ酸の必要性から、χ配列と相互作用を起こすタンパク側(RecBCD)が大腸菌で多用されるコドンをχ配列として認識するようにタンパク側が配列認識機構を進化させたという仮説を立てた。 二種の大腸菌:O157株とK12株よりBlastプログラムを用いて「相同領域」と「固有領域」を定義し、これらの領域でのχ配列の出現頻度とコドン使用やアミノ酸使用を求めた。χ配列を作り出す選択圧が進化の過程において存在するのであれば、二つの大腸菌を比較して相同部分がない(もしくは少ない)「固有領域」が外来性由来の領域であることが十分示唆されるため(=時系列的に後から挿入された可能性が高い)領域ごとのχ配列の出現頻度を分けて算出することで、χ配列にかかった進化的圧力がどれくらいであるかを求めた。 その結果、それぞれの大腸菌に「固有領域」においてはχ配列の出現頻度が低く「共通領域」と比較すると約2倍の出現頻度の差が見られることからχ配列を増やす圧力が存在している可能性が高いが、同様に各領域におけるコドン使用を比較した結果、χ配列の一部として高頻度に使用されている[ctg]コドンも領域によって割合が異なることが明らかになった。各領域におけるχ配列の出現頻度の差は二つの大腸菌が分化したといわれる系統樹より「450万年前」と考えると、χ配列を増やす進化的圧力がかかったとしても非常に弱い選択圧であると考えられる。
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