2003 Fiscal Year Annual Research Report
理論の歴史的発展過程の考察―ポパーおよびラカトシュ研究を介して
Project/Area Number |
02J10475
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
塚本 高也 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 数学の哲学 / 不可欠性議論 / 準経験主義 / 数学的実在論 / 集合論 / リサーチ・プログラムの方法論 / 尤度原理 |
Research Abstract |
クワイン=パトナムの不可欠性議論は数学の哲学における主要なトピックの一つとなってきた。不可欠性議論とは、過去の経験科学の成功を考えるには、数学が不可欠である、というものである。さらに、ここから、経験科学の成功は、数学的対象の存在(数学的実在論)を肯定する、という帰結が導かれた。私の考えでは、この議論に対する近年の批判の中に、ポパー=ラカトシュの歴史的アプローチの可能性を考察する重要な手掛かりがある。ラカトシュはパトナムと準経験主義を共有したが、不可欠性議論についてはまったく言及しなかった。私の解釈では、ラカトシュの数学の哲学では、不可欠性議論を展開する余地はない。ラカトシュとパトナムの対立は不可欠性議論に対する両者の見解の相違から明らかになってくる。 本年度の研究では、不可欠性議論に対する最近のペネロープ・マディとエリオット・ソーバーの批判を取り上げて、不可欠性議論から生じる諸困難を指摘し、集合論の歴史に基づく理論の発展過程、および、尤度原理による理論の優先選択と実在論との関係を考察した。私の考えでは、(ポパー=ラカトシュ流の)歴史的アプローチとポパーの験証度は、この二つの批判と深く関連している。マディが指摘したように、(数学史の中でも)集合論の歴史は近年の論理志向の強い数学の哲学を批判する格好の材料を与える。また、ソーバーが論じたように、科学理論の経験的成功は物理的対象の存在をより確からしいものとするが、ほとんどの競合する理論が共有する数学的対象の存在をより確からしいものとすることはない。 ラカトシュの数学の哲学は発表された当時には注目を集めたが、その後の数学の哲学への影響は比較的わずかなものだった。だが、こうした一連の議論から、ラカトシュのリサーチ・プログラムの方法論が果たす役割を、数学の哲学の主潮流の文脈の中に位置づけることができるようになる。
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Research Products
(1 results)