2002 Fiscal Year Annual Research Report
英仏海峡にまたがる政治文化のネットワークと中世後期イングランドの王権理念
Project/Area Number |
02J11396
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
梁川 洋子 関西大学, 文学部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 中世史 / イングランド / ロンドン / 戴冠式 / 入市式 / 国王儀礼 |
Research Abstract |
まず、中世イングランドの国王戴冠儀礼に関する研究文献を集め、これまでの研究論点の整理と問題点の抽出に努めたうえで、戴冠儀礼の諸史料のうち最も重要な戴冠式次第集である『liber regalis』を分析し、アングロ=サクソン期から14世紀までの式次第書の種類および、それぞれの式次第書の現存状況とマニュスクリプトの分類について知見を得た。そしてアングロ=サクソン期の式次第以来、国王戴冠式は司教叙任式に倣って行われてきたことを史料的に確認した。これにより、次のような発履過程を明らかにできるとの見通しを立てた。すなわち、国王は、戴冠儀礼全体を通じて、その聖職者的役割、すなわち神と臣民との仲介者としての性格を強調するようになったこと、さらに世襲権利や、神により選ばれたことを明示するようになったこと、一方で、ゲルマン民族の伝統としてあった選挙王政の性格は、次第に単なる列席者からの「承認」にまで薄められていった、ということである。 また、諸種のロンドン年代記を分析し、15世紀以降、国王のロンドン入市式が、ほぽ必ず戴冠式前日に挙行されていたことを明らかにした。そして、入市式の中で用いられたモチーフやテーマの変遷をたどることによって、市民と国王双方にとっての入市式の重要性や意味合いがどのように変化したかを考察した。この結果を、西欧中世史研究会のリーズ報告打ち合わせ会において口頭発表した。さらに、日本西洋史学会における中世ヨーロッパの王権と政治文化についてのシンポジウムや、英国リーズで開催された国際中世史学会に出席し、広く中世ヨーロッパ諸地域の政治文化、国王儀礼について多くの口頭発表を聞き、大いに知見を得た。そしてロンドンの大英図書館において、史料収集と調査を行い、18世紀から19世紀に刊行された垂要な戴冠式関迎の図書類を閲覧することができた。
|