Research Abstract |
本研究は,低温・低圧という特殊環境において,安全かつ快適な高所作業を行うための高所用防護服着衣システムを構築することを目的としている.本年度においては,低温・低圧環境における各種防護服被服素材の物質伝達と凝縮発生メカニズムについて,(1)気体分子運動論より,低圧下での被服素材の物質伝達は増加する,(2)衣服内での水蒸気凝縮が発生しやすくなるは,物質伝達の増加によるものである,という仮説をたて,実験的・理論的検証を行った.その研究業績を以下に報告する. まず,着衣状態にある人体を模擬した拡散抵抗測定装置を開発し,高所環境を再現した空間に設置して実験を行った.その結果,物質伝達は温度よりも圧力による影響を強く受け,低圧になるにつれ増加し,また,低圧になるほど衣服中の凝縮量は増加し,物質伝達をさらに増加させることを見いだした.従来,低温の高所では物質伝達が低下するため,衣服中の水分移動が抑制されて凝縮が生じると考えられていたが,本研究より,物質伝達が盛んな高所では,大量の水分が冷えた衣服に到達し,凝縮が発生しやすくなることを示した.衣服内での凝縮は,不快感ばかりでなく身体からの放熱を増大させて低体温症の原因となるため,その発生を抑制しなければならない.そこで,凝縮発生について,気体分子運動論と熱・物質伝達輸送論に基づいた衣服内凝縮量予測式を導出した.この予測式より得られた凝縮量は実験値とよく一致した.つまり,予測式中の凝縮抵抗と凝縮ポテンシャルによって衣服内の凝縮量が決定されることを示した.また,予測式と実験結果より,凝縮を抑制するには,大量の水分が冷えた外衣に一度に到達しないよう,ある程度厚さのある衣服を着用することが効果的であることを指摘した.これは,高所での活動において,人体の安全を保証する上で重要な指針である.これらの成果をまとめ,英文の論文2報を投稿し,受理された.(Textile Research Journal)
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