Research Abstract |
本研究の目的は,低温・低圧(低酸素)環境において,安全性・快適性を考慮した防護服着衣システムを構築することである.平成14年度から平成15年までに行った研究より,(1)低温・低圧環境下では,低圧の影響により物質伝達が促進されるため,身体から放出された汗が冷えた衣服内で凝縮しやすいこと(Textile Res. J.に掲載),他方,(2)低圧の影響により,身体からの放熱が抑制される(J. Appli Physiolに投稿)ため,低圧環境では,熱伝達低下と物質伝達促進のバランスを考慮した着衣システムが必要であるという,高所用防護服着衣システムの設計において,極めて重要な成果を得ることができた(3)さらに,身体からの発汗量と衣服内の汗の凝縮は,必ずしも比例関係にある訳ではなく,身体の体幹,大腿,下腿部位に,衣服内凝縮が発生しやすいこと(Eur J of Appli Physiolに掲載)を実験および理論的検証より示した. 高所では,太陽光から生体を防護することも大変重要である.そこで,本年度における研究では,防護服着衣システムの設計に関して,防護服の水蒸気(汗)移動を伴う放射熱移動特性に関する基礎研究を行った.研究では,着衣状態を模擬したモデル実験を行い,防護服内を透過する光が皮膚温に与える影響と衣服内温度と水蒸気分布に特に着目して検討した.高い放射熱流束に暴露されていない場合,着衣系の温度と水蒸気分布は皮膚表面上で最も高く,衣服を介して,環境に向け低値となっていくので,皮膚からの熱や汗は,衣服を通じて環境に放出される.他方,放射強度の高い環境に暴露された場合,衣服表面ではなく,表面から僅かに内側の,衣服そのものの中に温度ピークが現れる.放射熱流束により衣服に与えられた熱は,その温度ピークを基点に,環境に放熱されるものと,皮膚に向かって移動する熱とに分かれる.水蒸気ピークは,温度ピークとは異なる場所,衣服の内側表面上に現れ,水蒸気はそこから環境と皮膚の両方に移動する.皮膚側に移動する熱は,皮膚温を上昇させ,発汗を助長するので,結果として衣服内に大量の水蒸気が存在する.その結果,高い放射強度への暴露は,温熱感のみならず蒸れ感にも悪影響を及ぼし,身体を不快適な状態に陥らせてしまうことを,モデル実験と解析的検討より明らかにした.これらの成果をまとめ,国内外の会議にて発表(ICEE' 05,ICHES' 05など)するとともに,学術雑誌にも投稿する.
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