1991 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03610226
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊井 春樹 大阪大学, 文学部, 助教授 (50036175)
|
Keywords | 宗祇 / 宗碩 / 永閑 / 萬水一露 / 源氏物語聞書 |
Research Abstract |
宗祇に連歌及び古典文学を学び,その継承者として以後の連歌壇の中心的存在となった月村斎宗碩の源氏物語研究の意義と研究史に占める位置づけについて,今年度はほぼ次のような成果を得ることができた。 1 国会図書館蔵『萬水一露』の性格 『萬水一露』は,永閑が師宗碩の説を継承しながら古注を増補することによって成立したとされる。そのうち国会図書館本は,従来一伝本として処理されていたが,注記内容において流布本とは本質的に異なることが明らかになった。例えば流布本では「碩」「閑」「細」といった典拠名を記すが,国会本には存在しなく,しかも内容は重なりながらもかなりの部分で違いをみせる.これは,国会本が『源義弁引抄』で指摘される『宗碩抄』そのものではなかったかと思う。すると永閑は,ほぼ注釈書としての体裁を整えていた『宗碩抄』に,古注を加えて一書にしたのが『萬水一露』ではなかったかと想定されてくる。 2 宗碩の源氏物語注釈 宗碩は永正13年4月初め周桂を伴って九州へ下向したが,途中山口に滞在して源氏物語の構釈を催す(天理図書館蔵『源氏物語』行間書入注)。その後の足跡は,翌年3月22日に日向国,6月4日に薩摩国,11月に帰京する。ところが,龍谷大学図書館蔵『源氏物語聞書』には永正13年11月19日の日向国都於郡での講釈の記録が見える。注記内容は宗碩説にほぼ重なるので,宗碩の行動の新事実といえるであろう。 3 『萬水一露』の成立 伝本は,写本と版本の2種に大別できる。版本は松永貞徳が承応元年に出版したもので,その折本文の大幅な増補,注記の整理などをしたことが明らかになった。
|