1991 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03640325
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Research Institution | National Laboratory for High Energy Physics |
Principal Investigator |
池田 進 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 助教授 (80132679)
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Keywords | 誘電体 / 中性子コンプトン散乱 / 水素結合型物質 |
Research Abstract |
中性子散乱は、水素に対する散乱断面積が他の原子に比して異常に大きいことから、水素研究の重要な手段であった。本研究で確立をめざす中性子コンプトン散乱は、これまでの用いられてきた中性子散乱技法とは異なり、直接、基底状態の波動関数の研究を可能にするものである。さらに、中性子コンプトン散乱では散乱原子の質量によって、その散乱ピ-クが異なった位置に出現する。これは、水素(質量が一番小さい)からの散乱を他の原子からのものと全く分離して観測できるという大きなメリットをもたらす。本研究の目的は、中性子コンプトン散乱技術を確立するとともに、この技法によって、誘電体KDP中の水素の波動関数に対する知見を得、相転移機構における水素の役割を研究ことにあたった。1。中性子コンプトン散乱技術の確立。中性子コンプトン散乱研究用クライオスタットを製作し、標準試料として水素の波動関数がharmonicと考えられているZrH2を用いて中性子コンプトン散乱研究を行った。この結果、ZrH2中の水素の基底状態の波動関数がやはりharmonic wavefunctionであることが確認された。また、他の標準物質TiD2,VH2でも同様の研究を行い、一般に、中性子コンプトン散乱によって基底状態の波動関数が研究できることを確認した。(Y.Nakai,E.Akiba,H.Asano and S.Ikeda、J.Phys.Soc.Jpn.、掲載予定)。2。中性子コンプトン散乱によるKDP中の水素の波動関数の研究。単結晶KDPを用い、通常の非弾性中性子散乱実験を行うとともに(K.Shibata et al.J.Phys.Soc.Jpn.掲載)、相転移温度の上下の温度で中性子コンプトン散乱研究を行った結果、相転移温度で、水素の波動関数は全く変化しないことが確認された。この結果は、KDP等の水素結合型誘電体の相転移機構として考えられていた水素のトンネルモデルを否定するものであり、大きな波紋をなげかけている(S.Ikeda et al.、投稿予定)。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] K.Shibata and S.Ikeda: "Incoherent Inelastic Neutron Scatlering from Hydrogen-Banded Compound KH_2PO_4" J.Phys.Soc.Jpn.61. 411-414 (1992)
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[Publications] Y.Nakai et al.: "Neutron Compton Scatlering with an e V Spectrometer" J.Phys.Soc.Jpn.
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[Publications] S.Ikeda: "Neutron Compton Scatlering from KDP" Phys,Rev.Lett.