1991 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03640537
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青木 健一 東京大学, 理学部, 助教授 (30150056)
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Keywords | 遺伝子・文化の共進化 / 成人乳糖分解 / 飲乳 / 手話 / 聾 |
Research Abstract |
平成3年度には以下の2問題を研究した。 (1)成人乳糖分解者が多い人類集団では飲乳習慣も普及していることが知られているが、この相関関係を説明するために3つの仮説が提唱されている。歴史文化的仮説およびカルシウム吸収仮説はともに遺伝子と文化の共進化を、逆原因仮説は乳糖分解能に関する遺伝的変異が存在するところに飲乳の発明が現れたと主張する。そこで、乳糖分解者と飲乳者の共進化を集団遺伝子学のモデルに基づいて理論的に研究し、それぞれの仮説の妥当性を検討した。まず、歴史文化的仮説あるいはカルシウム吸収仮説が成り立つためには、遺伝子頻度の変化のみを考慮した一元的なモデルから期待されるよりかなり強い自然淘汰が要求されることを示した。また、乳に対する好みの効果も検討したが、逆原因仮説が成り立つためには、乳糖分解者と分解不良者の好みに違いがあることが必要で、斜行伝達と水平伝達のパラメ-タ-がある不等式を満足しなければならないことを示した。さらに、強い淘汰が要求される原因を遺伝子型と文化型の間の連鎖不平衡の観点から追究した。その結果、斜行伝達と水平伝達のみでは連鎖不平衡が形成されず、垂直伝達が加わった場合にもすぐに消滅することが分かった。 (2)手話とは聾者の自然言語であり、文化伝達によって維持されている。遺伝子と文化の相互作用の観点から興味深いのは、祖父母から孫への伝達である。なぜならば、聾は劣性遺伝が多いため家族内では世代を隔てて出現する傾向にあるからである。この問題では、個体の相対頻度を変数とする漸化式を導くことができないようである。その代わりに、父母とその子からなるトリプレットを定義して、その頻度を変数とする差分方程式系を用いて解析した。結論として、聾に関する同類結婚率が高ければ、祖父母から孫への伝達が極めて有効であることが分かった。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Aoki,Kenichi: "Time required for gene frequency change in a deterministic model of geneーculture coevolution,with special reference to the lactose absorption problem." Theoretical Population Biology. 40. 354-368 (1991)
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[Publications] Feldman,Marcus & Aoki,Kenichi: "Assortative mating and grandparental transmission facilitate the persistence of a sign language" Theoretical Population Biology. (1992)