1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03640537
|
Research Institution | University of Tokyo |
Principal Investigator |
青木 健一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教授 (30150056)
|
Keywords | 文化伝達 / 父親による子育て / 共進化 / 父性信頼度 |
Research Abstract |
母親が子の世話をするのは哺乳類の通則であるが、これに伴って一部の霊長類では母親から子への文化伝達が多少見られる。以前の研究から、母親のみならず父親からも子への文化伝達が可能な状況下では、文化伝達の能力が進化し易いことが分かっている。たとえば、父親が母子を捨てずに子育てに参加するならば、その条件は満足されるであろう。そこで、文化伝達が発達していることと父親が子の世話をすることが共にヒトの特徴である点に着目して、文化伝達能力と父親による子育てが共進化する可能性を理論的に検討した。まず、数学的な取扱が簡便な有性一倍体モデルを完全に記述し、平衡点の同定と安定性解析を行った。その結果、母親からの文化伝達の効率がよく、父親からの文化伝達に補助的な意義しかない場合、文化伝達能力と父親による子育てがほぼ独立に進化することが分かった。ただし、父親による子育てがすでに確立している場合には文化伝達能力が進化し易く、これはすでに得ている知見と一致する。一方、父親からの文化伝達が特に重要である場合には強い相互作用が見られ、文化伝達能力と父親による子育ての共進化が促進される。この予測は、メイナード・スミスが示した父親による子育ての進化条件と著しく異なる。次に、より現実的な二倍体モデルを記述し、一部の平衡点について安定性解析を行った。本質的な結果において二倍体モデルと一倍体モデルは共通点が多いため、後者は前者のよい近似を与えるものと思われる。さらに、一倍体モデルを拡張して母親による「婚外」性交の効果を検討した。父性信頼度が下がると、当然のことながら文化伝達能力も父親による子育ても進化しにくくなる。したがって、一夫一婦の核家族の形成と文化伝達の発達がヒトの系統で相関していた可能性が示唆された。
|
Research Products
(1 results)
-
[Publications] Aoki,K.and Feldman,M.W.: "Cultural transmission of a sign language when deafness is caused by recessive alleles at two independent loci" Theoretical Population Biology. (in press). (1994)