Research Abstract |
前年度の検討で,MoBとNiとの濡れ性は良好であり,溶射時の両者の反応は極めてわずかであることが明らかになった.また,MoBの表面をNiで覆った複合粉末を用いると,MoBの溶射効率は極めて高くなり,均一な組織の溶射皮膜が得られた.そこで本年度は,MoB-Ni系サーメットの減圧プラズマ溶射皮膜を作製し,その機械的性質を評価した. 混合粉を用いた皮膜ではHv250〜600程度であり,皮膜中のMoB量が少ないため高い硬さは得られていない.また,複合粉を用いた皮膜においても,溶射距離が300mmの場合は,Hv450〜800と,気孔が多いためそれほど高い硬さの皮膜とはなっていない.溶射距離を225mmにすると,多少残っている気孔の影響で幾分ばらつきは大きいが,Hv1500以上に達する高い硬さの皮膜が得られた.この結果は,サーメット溶射皮膜への複合粉末利用の有効性を示している. つぎに,MoB-Niサーメット溶射皮膜の耐摩耗特性を評価した.摩耗試験の結果を,高温高強度材料の一つであるステライト-6と比較すると,格段に優れた耐摩耗性を示すものの,WC-Co溶射皮膜に比べると著し っている.そこで,摩耗痕表面のSEM観察を行い,この原因を検討した. 摩耗痕は全体的に平担な形態を示しているが,一部10μm程度の空洞が認められる.この空洞は,皮膜中に存在した気孔に対応したものであり,気孔周辺部からホウ化物粒子が脱落した痕跡を示している.ホウ化物どうしの接合は弱く,バインダ金属の枯渇した部分での高い接合強度は望めない.また,このバインダ金属の不足した部分が皮膜組織中に気孔となって残留し,この気孔の部分ではホウ化物粒子の接合が弱く,摩耗試験中に容易に脱落し,大きな摩耗減量を導いたものと考えられる. したがって,今後粉末調製方法および溶射条件の改良によって,皮膜組織を改善することができれば,その機械的性質も著しく向上するものと考えられる.
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