2003 Fiscal Year Annual Research Report
ケインズの利潤均衡と貨幣理論の起源:ホートリーの所得定義と信用循環理論を中心に
Project/Area Number |
03F00177
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小島 專孝 京都大学, 大学院・経済学研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
李 哲熙 京都大学, 大学院・経済学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | ホートリー / 所得=生産費 / 循環構造的把握 / 商人主導経済 / 信用の不安定性 / ケインズ / 期待均衡 / 企業家の心理学 |
Research Abstract |
小島教授による一連の研究はケインズ理論の起源に関する学説史研究において重要な視座を与えてくれる。特に彼はシュンペーターの実物的分析と貨幣的分析の区別に基づき、ホートリー・コネクションを提案する。それはホートリーの『好況と不況』と『通貨と信用』等で現れた「所得=生産費」を出発点とする貨幣経済への「循環構造的把握」でその起源を見出し、ケインズの飛躍は『貨幣改革論』から『貨幣論』の間であるということである。ところで、小島はホートリーの循環構造的把握からなる所得定義が持つ全体としての貨幣経済の特徴だけを強調する故にホートリーとケインズにおける貯蓄と投資の因果関係の相違や利潤概念における相違点を指摘しながらも、ケインズの利潤均衡と貨幣理論が持つホートリーの批判的受容の意味が不明瞭に残っている。 二人の根本的な相違は期待形成過程にあり、ホートリーは経常需要(又は経常利潤)を、ケインズは予想需要(又は予想利潤)を基礎として各々所得定義は勿論、貨幣理論を展開したと思われる。ホートリーによると、生産規模の意思決定は主に商人による生産者への注文によって測れる経常需要(current demand)に基づいており、予想価格は二次的要因にすぎないからである。一方、ケインズは『貨幣論』からホートリーの在庫投資だけへの強調や「予測できなかった変化に対する修正だけに全ての重きを置く」説明であると批判し、企業家の期待均衡として貨幣経済の均衡を定義した。『貨幣論』で使われた「投資=貯蓄」という利潤均衡は「意外の利潤=0」又は「総所得=総生産費」という概念で、全体企業家は意外の利潤がゼロになれば、生産量を変更したり、賃金契約を変更したりする動機がない、という意味としての期待均衡である。『一般理論』では全体企業家の期待利潤を極大化する均衡を有効需要と定義し、その均衡は乗数過程を通じて実現されると捉えた。 『一般理論』形成史研究においてホートリーによる有効需要変動や数量調整への強調などを取り上げ、彼を「ケインズ革命の先駆者」として評価する視座があるが、この視座は彼がケインズの企業家の心理学を完全に否定したことをまったく考慮しない評価であろう。ホートリーによるケインズ批判は『一般理論』の有効需要概念をめぐっても、1950年代の総供給関数論争までつづいた。おそらくその原因はホートリー貨幣経済理論の特徴である「信用の不安定性」を彼独自の「商人主導経済」で求めたことにあると思われる。ホートリーの商人はケインズの企業家と異なり、将来の推論よりも外的ショック(需要変動又は短期利子率変動)に対する試行錯誤過程によって対応する存在であるからである。
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