Research Abstract |
地球内部の流体(水溶液)は,物質の粘性・強度や拡散の速さに大きく影響し,地球内部の動的過程を支配している.特に岩石の変形において,結晶粒界に存在する流体の連結度などは,それを介しての物質移動(拡散や浸透)を大きく左右し,結果として岩石の変形速度や断層運動さらには地震活動に大きな影響を及ぼしていると考えられている.そこで,ここではまず,流体の化学組成や温度などが流体の構造やぬれにどのように影響するかを,主に赤外分光法によって調べた. まず,地殻流体の代表として,純水,NaCl,炭酸水溶液などの人工的な水溶液を作成し,減衰全反射(ATR)赤外分光法を用いて,赤外スペクトルを測定し,OH伸縮振動赤外吸収帯の変化を定量的に解析し,流体の構造と性質(かたさ,やわらかさ)を調べた.その結果,みかけのピーク位置は,高波数側から順にKCl,NaCl,CaCl_2>Na_2SO_4>純水,NaHCO_3,Na_2CO_3となり,ピーク相対強度比3250/3350は値が大きい方から,Na_2CO_3>純水>NaHCO_3,Na_2sO_4,MgCl_2>NaCl,KCl,CaCl_2の順となり,異なる水溶液の特性を評価することができた. また,これら人工水溶液の加熱測定を加熱減衰全反射赤外分光法によって行しいOH伸縮振動赤外吸収帯などの変化を定量的に解析した.その結果,200℃まで加熱するにつれ,すべての水溶液でみかけのピーク位置,ピーク強度比3630/3350,平均水素結合距離が増加した.純水の値が最も大きく変化し,高温では純水が最も大きな値をとった.また4成分面積比では第1成分が最も変化し,水素結合距離が長いクラスターの割合が増えていく.しかしながら水分子以外の溶存物質が存在すると,温度の上昇に伴う本来の水分子の動きを溶存物質が束縛し,純水ほど水素結合距離が長いクラスターの割合が大きくならないと考えられる. さらに,現在及び過去の地震発生帯と考えられる地域の予備調査を開始し、岩石試料中流体包有物の顕微ラマン分光法,顕微赤外分光法による測定の準備を行った.今後,上記の人工水溶液の結果と比較し,流体の岩石へのぬれ,物質移動特性を考察していく. なお,本年度の研究経費において高額の外国旅費を申請し,現在の地震発生帯パプアニューギニアでの長期間の地質調査を計画していたが,ビザ申請に時間がかかり,年度内に調査を行えなかったので,ご了承頂きたい.
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