Research Abstract |
紅藻スサビノリ葉状体は,低水温,短日条件下では成熟することなく成葉まで成長するが,高水温,長日条件下では葉状体栄養細胞の雌雄生殖細胞への分化が誘導・促進される。スサビノリ葉状体の成熟は水温及び光周期の変化により誘導され,葉状体には外部環境の変化を認識する機構と,それに応答して栄養細胞の雌雄生殖細胞への分化を誘導する機構が存在する。本研究では,この一連の分子機構に関与する遺伝子を単離・同定するために,未成熟及び成熟葉状体で発現する遺伝子につきcDNAサブトラクション法による大規模比較解析を行うことを計画している。本年度は,葉状体の成熟誘導試験により栄養細胞が雌雄生殖細胞へ分化する過程を詳細に観察し,比較解析に用いる試料調製の条件検討を行った。 低水温(10℃),短日(明期:暗期=10h:14h,光強度2,000lux)条件下で培養し,約5cmの藻体長に達した未成熟葉状体を高水温(15℃),長日,(明期:暗期=16h:8h,光強度2,000lux)条件下に移し,葉状体の成熟誘導を行った。光学顕微鏡で細胞の形態変化を24h毎に観察したところ,成熟誘導48h迄の葉状体に生殖細胞は認められなかったが,72〜96h後では葉状体頂端部に,168h後には葉状体面積の約40%で生殖細胞の形成が確認された。したがって,栄養細胞の環境認識,生殖細胞への分化初期,及び中後期に関与する遺伝子の単離・同定にはそれぞれ,未成熟及び成熟誘導48hの葉状体間,誘導48h及び96hの葉状体間,誘導96h及び168hの葉状体間でのcDNAサブトラクションが有効であることが明らかとなった。 今後は,未成熟,成熟誘導48h,96h及び168hの葉状体を大量調製後,各葉状体mRNAから合成したcDNAを用いてサブトラクション法による発現遺伝子の大規模比較解析を行う予定である。
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