Research Abstract |
広く用いられているイネの生長シミュレーションモデルORYZA2000を用いて,開放系大気CO2増加実験の結果をシミュレートした結果,モデルは同実験におけるイネの収量を概ね適切にシミュレートできるが,植物体バイオマス量はやや過大に,葉面積は大幅に過大に,推定することが分かった.また,高CO2濃度によるイネ収量の増加をモデルと観測値で比べると,窒素肥料を標準量及び多量に施用した場合の収量の増加を,モデルは適切にシミュレートできたが,少量施肥の場合に収量増加程度が小さくなる現象を,モデルは再現できなかった.以上の結果は,論文に取りまとめて投稿し,受理されて現在印刷中である. では,なぜモデルは葉面積を過大に推定するのか,原因解明のために,光合成で作られた炭水化物を地上部と地下部に分配する過程,地上部に分配された炭水化物が葉に分配される過程,そして葉に分配された炭水化物で葉面積が拡大する過程について,モデルを観測値と比較した.その結果,モデルは葉に分配された炭水化物による面積拡大を過大に推定しており,このプロセスを修正することで観測値により近い葉面積のシミュレーションが可能となった.以上は,高CO2濃度と外気CO2濃度に共通であるが,CO2濃度間では,葉への光合成産物分配と葉の面積拡大が高CO2濃度下で低下していることがわかった.この現象をシミュレートするために,モデルのパラメータを高CO2濃度で低下させたところ,葉面積の拡大をより良くシミュレートできるようになった.このように葉面積のシミュレーションは改善されたが,収量のシミュレーションはほとんど変わらず,むしろわずかに誤差が大きくなった.また,窒素肥料が少ないと高CO2濃度によるイネ収量の増加が小さくなる現象は再現されず,この点については,別途改良が必要と考えられた.以上の結果は現在,論文に取りまとめ中で,まもなく投稿予定である.
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