Research Abstract |
気候環境が文化財に利用されている岩石の風化速度に及ぼす影響について,野外観測と環境試験室内でのシミュレーションによって調べた.研究対象試料として,文化財に顕著な風化による劣化が報告されているアルザス地方(大聖堂)の砂岩,群馬県碓氷峠(鉄道施設)のレンガ材,栃木県宇都宮(磨崖仏)の凝灰岩を選定した.碓氷峠では詳しい現地調査・観測を行なった.具体的な研究内容と成果を以下に示す. 1.野外調査:碓氷トンネル・鉄橋を構成するレンガでは,南向きでは蜂の巣状破砕,北向きではブロック状破砕が卓越する.それぞれ,塩類風化,凍結風化が原因として推定された.壁面の破砕の分布と形状について,詳細なマッピングを行い,壁面の強度分布・水分分布を定量化した.また,冬期には,壁面の凍結状態と氷の分布を調べた. 2.野外観測:レンガ壁の膨張と破砕,温度,水分を小型データロガーを用いて記録し,破砕が進行するさいの環境条件を調べた.北向き壁面では,冬期(1-2月)で凍結が頻繁に起こる時期に膨張の発生が観測された. 3.室内実験:温度・湿度を制御できる環境試験装置内に,野外で採取した試料を置き,現場の気候条件を再現し,凍結に伴う風化過程を詳細に調べた.初期飽和度が高く,凍結中に十分な水分が供給される試料では,凍上とその結果としての破壊が発生した.凍結の進行とともに各深度での凍上量が変化した.3つの試験材料を比較したところ,細かい空隙の多い砂岩や凝灰岩では,水分移動が遅いため長期の継続的な凍結で凍上良が増加するが,空隙が大きく,しかも大きさのそろっているレンガ材では水分の移動が急速に起こるため,短期間の凍結・融解の繰り返しが破壊発生に効果があることがわかった. 以上の研究成果に基づいて,トンネル壁面の温度変化を抑制することが,文化財の劣化を防ぐために効果があると判断し,提言した.
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