2004 Fiscal Year Annual Research Report
家族の歴史的変動過程と地域におけるその意味-ライフヒストリーからの考察-
Project/Area Number |
03J00089
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
湯澤 規子 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 家族 / 地域 / 暮らし / 結城紬生産地域 / 家族内分業 / 産地内分業 / 複合的生業構造 |
Research Abstract |
地理学研究では生産活動に対する分析が重視される一方で、生産活動を取り巻く日々の営みは等閑視される傾向にあった。その結果、日々を暮らす人々の視線から地域を捉えた研究は蓄積されず、彼らの暮らしや家族が産業地域の維持にどのような影響を与えたか等についての検討はほとんどなされてこなかった。日本社会において家族が重要な役割を果たしてきたという指摘がなされる中、地理学研究において家族や家族経営のあり方が意外にも言及されてこなかった背景には上記のような研究動向があると考えられる。これまで筆者は「人間不在」と評されてきた地理学研究の新たな方向を模索するため、主に第二次世界大戦後の結城紬生産地域を対象として織り手のライフヒストリーを分析し、紬生産を支えたメカニズムとして家族内分業の重要性を指摘し、その特徴として家族労働力構成の変幻自在な柔軟性を明らかにしてきた。 今年度は分析対象を明治・大正期まで広げ、結城紬生産地域の中でも特に旧絹村および旧絹川村を中心として集落の景観と暮らしを復原した。諸税関係資料や屋号調査、聞き取り調査によって生業構造を検討した結果、結城紬生産地域は純農村地域に立地しているというよりもむしろ、鬼怒川水運に関わる河岸場に立地していることや、人々の暮らしは水運業、漁業、諸営業、農業、農産加工業などによって成立し、紬生産はその一環に位置づけられる存在であることが明らかになった。これは結城紬生産が鬼怒川流域に卓越する零細農業の副業であるという既往の研究の解釈とは異なるものであり、筆者は当該地域における紬生産の位置づけそのものに対する再解釈の可能性を指摘した。筆者はこの成果を、第47回(平成16年度)歴史地理学会大会(平成16年7月3日、於:島根県民会館)において「明治期〜大正期における結城紬生産地域の景観と暮らし-紬生産の成立要因に関する一考察-」として口頭発表した。
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