Research Abstract |
本年度は,怒りコントロールに関する研究として,二つの研究を行った.一つは,怒り経験後の鎮静化と"許し"に関する研究であり,もう一つは,怒り経験の鎮静化過程のリアルタイム調査である. 怒り経験後の鎮静化と"許し"に関する研究では,大学生約300名を対象に調査を行った.調査では,まず,家族以外の知人に強い怒りを感じた出来事を1つ思い出してもらい,その出来事について具体的に記述させた.その後,感情(怒り,抑うつ),認知(肥大化,客体化,自責化,終息化),行動(合理化,原因究明,攻撃行動,社会的共有,物への転嫁,怒りの伝達,気分転換,忘却,逃避・回避)の実行度について評定させた.また,現在,怒りを感じた相手を許しているかどうかについても評定させた.その結果,強い怒りを感じた場合,また,怒りをますます高めるような肥大化の認知を行った場合に相手を許せないことが明らかになった.一方,自分の責任を認めるような自責化の認知を行った場合には,相手を許していることが示された.つまり,怒りを経験したときには,その経験に関して自分の責任を認めることができるかどうかが,相手を許し,怒りを鎮静するために重要であるのかもしれない.さらに,行動に関しては,合理化・原因究明といった論理的な解決や怒りの伝達を行った際には相手を許し,社会的共有,逃避・回避といった行動を行った際に相手を許していなかった.すなわち,相手を避けるのではなく,相手,もしくは,怒りを感じた経験と向かい合い,積極的に怒りを鎮静しようとすることが,相手を許すことにつながる可能性が示唆された. リアルタイムの調査については,調査協力に同意をした被験者に調査用紙を携帯してもらい,怒りを経験した場合に,怒り経験の当日,翌日,2日後,3日後〜1週間後の計4回の感情・認知・行動について,評定させた.リアルタイムに調査を行うことにより,「認知の歪み」といった問題点が解決され,過去の経験を思い出して回答してもらう研究よりも,より現実に即したデータを得ることができる.現在の状況としては,怒りを感じた協力者(約30名)から調査用紙を回収し,データ入力・分析中である.なお,怒りを感じていない協力者(約10名)に関しては,現在も実施中である. また,本年度は,怒り経験とのその鎮静化過程における個人内要因・怒り表出の抑制要因に関して,中学生と大学生を対象に行った調査結果を学会にて発表した上で,論文化し,投稿した.学会においては,同じように怒り感情や攻撃行動に注目し研究を行っている他の研究者とWSを行い,今後の研究の発展のために,互いの知見や意見の交換を行った.さらに,怒り感情に関して,怒りを喚起した場合だけではなく,怒りの対象となった経験についても基礎的なデータを収集し,学会にて発表を行った.
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